清美だけが家族の輪の外に
身だしなみや格好に厳しいのはひろ子だけではない。
悠里もひろ子も、流行やブランドを意識し、年齢に合った華やかな服や小物をいつも選んでいた。今、2人が身につけているものも有名なものだとは思うが、ファッションに疎い清美にはブランド名も、その価値も分からない。そのため、清美が何を着ても品定めされているようで居心地が悪かった。
居間に向かうと、ひろ子は膝をかばいながらゆっくりと座布団に腰を下ろした。
「お義母さん、お茶持ってきますね」
清美はすぐに台所に向かい、人数分の麦茶を準備した。麦茶をお盆に載せて居間に戻ると、悠里の長男が道明の腕を引っ張り、居間を出ようとしていた。
「おじちゃん、こっちで遊ぼ!」
道明はあらがうこともせずに笑顔を浮かべて、そのまま居間を出ていってしまった。3人にしないでよと心の中で思いながらも表情には出さず、清美はテーブルの上に麦茶を置いた。ひろ子は忌々しそうに膝をさすっている。
「この膝のせいで、美容院へ行くのも買い物へ出るのも一苦労ね。ほんと嫌になるわ」
「お義母さん、無理しちゃダメですよ」
悠里が声をかけると、ひろ子は柔らかな表情になった。
「悠里ちゃんは優しいわね。それに、赤ちゃんがいるのにいつもきれいにしていて感心するわ」
「そんなことないですよ」
悠里は満足そうに髪を耳へかけた。ひろ子は自分のことはいつも「清美さん」とよそよそしく呼ぶのに、悠里のことは親しげに「悠里ちゃん」と呼ぶ。その違いを耳にするたび、自分だけが家族の輪の外にいるような気がしてしまう。
清美が気後れしていると、ひろ子が清美の方に目を向けた。
「それに比べて清美さん、そのワンピースは暗すぎない? 紺色なら無難だと思ったんでしょうけど、顔色が悪く見えるわよ」
「すみません……」
肩を落とす清美に追い打ちをかけるように、悠里も口を開く。
「ね。靴もベージュだったでしょ? あんな合わせ方したら全体的にぼんやりしちゃうよ。こんな無難な色を選んで組み合わせを変にするって逆に難しいって」
「もう悠里ちゃん。そんなにはっきり言ったらかわいそうよ」
ひろ子はたしなめるように言ったが、口元には笑みが浮かんでいた。
清美は背中を丸めながらうなずいた。
「次は気をつけます……」
悠里はいつも通りだったが、今年のひろ子は膝の痛みで苛立っているためか、言葉が例年以上にとげとげしかった。これがあと1日は続くのかと思うと、清美は笑顔の下で深いため息をつかずにいられなかった。
●義母・ひろ子から服装に細かな注文をつけられながらも、夫・道明には本音を打ち明けられずにいた清美。今年も義母と義姉から早々に身なりを酷評され、笑顔で耐えるしかなかった。しかし、ひろ子の嫌味は服装だけでは終わらなかった…… 後編【「だから子どもができないのよ」義母の禁断の一言を黙って耐えた妊活中の嫁…夫が見せた行動は?】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
