市場に余計な思惑を生じさせないアイデア~アンケートのすすめ~
というわけで、以下のようなアイデアを考えてみました。参考にしたのは、海外中央銀行のやりかたです。
海外中銀では、バランスシートの資産側にある国債の保有残高をどういった水準にするかではなく、先に負債側にある準備預金の最適な水準を金融政策に与えられた使命に照らして決定し、その反対側でどういう資産をどのくらい保有するか検討しています。
準備預金の最適な水準とは何かというと、「中央銀行が金融政策できちんと短期金利を誘導目標にコントロールでき、そして短期金利を不安定化させない程度に潤沢な準備預金の最小値」と整理することができます。
その水準のことを中央銀行の世界ではAmple(十分な)水準と呼んだりしますが、要するに、物価安定という使命を実現するために短期金利が目標水準に誘導でき、かつ金融システムを不安定化させないために十分な準備預金の量のことです。
これを準備預金の需要曲線を推計することによって算出するケースもありますが、推計によって特定の値に絞るのが困難なことから、例えば米連邦準備制度理事会(FRB)や英国中央銀行(BOE)では、推計だけでなく、望ましい準備預金水準を直接民間銀行から聴取することによってAmple水準を探るということをやっています。
このやり方の最大の利点は、中央銀行のバランスシートの規模を中央銀行法とひもづけて決めることができ、かつ財政従属を疑われるような恣意(しい)性が排除できることです。
資産側にある国債をどれだけ保有するのか、資産側だけで決めようとすると、当然、中央銀行としてどれだけ長期国債を持つのが適切なのか、長期金利への影響をどこまで配慮すべきかなど、かなり難しい問題に突き当たることになります。
そこで、6月MPMで実施する中間評価では、とりあえず2027年4月以降も暫定的に国債買入額を月額2兆円程度にするとした上で、取引先金融機関に対して望ましい準備預金水準を聴取するアンケート調査を開始すると宣言してはどうでしょうか。
その結果を踏まえてAmpleな準備預金を特定し、その見合いで資産側の長期国債保有額を決めると説明すれば、物価安定と金融システムの安定という日銀に与えられた使命との整合性が確保でき、財政従属だという批判からも逃れることができます。
日銀の長期国債保有額と当座預金の関係~逆ざやの発生はむしろ健全の証~
ここで、準備預金(当座預金)と長期国債保有額との関係について、簡単に補足しておきましょう。
バランスシートの負債側にある準備預金(当座預金)を決めて、その見合いで資産側にある長期国債の額を決めれば良いと述べましたが、両者には密接な関係があります。
例えば、日銀が国債買い入れを行う場合、金融調節オペを通じて金融機関から長期国債を購入するわけですが、その代金は購入した相手の金融機関が日銀に設けている口座(当座預金)に振り込まれます。
金融機関がその代金を当座預金から引き出して別の用途に使えば、日銀の長期国債保有残高と当座預金は乖離(かいり)しますが、両者はおおむね同じような動きをしていることが、図表4から確認できます。
<図表4 日銀の長期国債保有残高と当座預金、国債利息と利払い>
国債買い入れの額が先に決まっている場合は、その結果として当座預金が決まってきますが、先に当座預金の目標額を決めたとしても、量的緩和と同じように、当座預金が目標額になるよう国債買い入れを行えば良いということになります。
ちなみに、5月27日に日本銀行の第141回事業年度(2025年度)の決算が発表されましたので、図表4の直近値はそれを使っていますが、2026年3月末の長期国債保有残高は530.9兆円、当座預金は459.7兆円となっています。
また、その保有している長期国債から得られる2025年度の「国債利息」は2.51兆円、当座預金に課された付利(政策金利と同じ)によって発生する「補完当座預金制度利息」が2.71兆円ですので、最近の利上げに伴って2025年度は利払いが利息収入を上回る逆ザヤが発生したことになります。
利上げ局面では、利上げによって利払いは即座に膨らむ一方で、国債利息は保有する長期国債の入れ替えがゆっくり進むことから急には拡大しません。このため、逆ザヤが発生するわけですが、これは欧米中銀でも当たり前のように起きている現象です。それによって中央銀行の収益は痛みますが、独立して金融政策を運営している健全な中央銀行の証と見ることができます。
