「手伝う」が生んだ溝

「でも……俺も家事を手伝ってただろ。そこまで1人で抱え込んでたなんて、正直わからなかったよ」

「やってくれてるのは分かる。でも私から言われてからじゃないと動かないし、自分で決めた役割以外はどんな状況でもやろうとはしないでしょ? どうして私だけが多くの部分を背負ってやらないといけなかったのよ……!」

ゆかりは苦しそうな顔で訴えてきた。

泰司としても言い分はあった。だが言葉にしようとは思わなかった。なぜなら目の前には明らかに限界を迎えている妻の姿があったからだ。

そして、今の今まで自分が気づけなかったという罪悪感もあった。泰司は自分なりにやってるつもりだったが、それでは足りなかったのだろう。ここまでゆかりを追い込んでいることが何よりの証拠だった。

「ごめん。あなたは何も悪くない。責任転嫁しちゃってた。お金は必ず返すから。それで許してほしいの」

泰司はゆかりを見据えた。

「……いや俺も、何でもかんでもゆかりに任せてばっかりだった。そもそも手伝うっていう発想がよくなかったんだよな。本当にごめん。これからは俺ももっと家事や育児をやるようにするから」

   ◇

それから泰司は言葉通り、いろいろな面で家事や育児を行うようになった。自分の役割が増えたのもそうだが、何よりも気づいたらどんなことでも率先してやろうと心がけた。

ママがいいと駄々をこねる博樹をなんとかなだめ、保育園児がよく眠れるという噂のYouTube動画を延々と見せたあと、泰司はあくびをしながらベッドから出て、音を立てないように寝室の扉を閉めた。リビングに戻ると、ゆかりはテーブルについていて、その目の前にはコンビニスイーツのロールケーキが置いてあった。

少しドキッとして立ち止まった泰司の気配に気がついて、ゆかりが振り返る。

「たまにはいっしょに食べない? 疲れたときには甘いものが効くよ」

見れば、ロールケーキはふたつあり、まだ封が開いていなかった。

「そうだな。たまには食べようかな。コーヒー淹れるよ」

「お、気が利くね」

泰司はキッチンへ向かい、マグカップをふたつ並べてインスタントコーヒーの粉をいれた。お湯が沸くのを待っている間、ゆかりがこちらをじっと眺めていることに気がついた。

「どうしたの?」

「どうもしないよ。これからも頼むよ、パパ」

泰司はなんとなくこそばゆさを感じながら、「任せろ」と答えた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。