通帳を突きつけた夜

ゆかりが博樹を寝かしつけてリビングに戻ってきたところで、泰司は声をかけた。

「ゆかり、ちょっと話があるんだ」

「何?」

泰司の声の真剣なトーンを感じ取ったのか、ゆかりは泰司の目の前に座った。泰司は貯蓄用口座の通帳をゆかりに見せた。

「……ここからお金が引き出されていたんだけど、ゆかりだよな?」

通帳を見てゆかりの表情がこわばった。

「何に使ったんだ?」

ゆかりは目線を落としながら口を開いた。

「……どうしてもほしいバッグがあって。カードの引き落としがかさんじゃったから、ちょっと借りただけ。もちろん給料が振り込まれたらすぐに戻すつもりだったし」

「今月分の給料はもう振り込まれてるはずだろ? それなのに明らかに減ってるって分かるってことは戻せてないってことじゃないのか?」

泰司の言葉にゆかりは唇を噛む。

「だからそれは来月分の給料で返せるから。問題ないって……」

「いや返せるから問題ないってことじゃないんだ。そもそもこの口座のお金は使わないっていう約束だっただろ。それが問題なんだよ。どうしてそんなにお金を浪費するんだ? 服だってやたらと増えてるし、昔はほとんど買わなかったコンビニスイーツだって……何やってんだよ」

泰司が追求すると、ゆかりはゆっくりと口を開いた。

「だって、そうでもしないとどうにかなりそうで……」

「……どういうこと?」

「仕事は休んでたうちに、社内システムも働いている人も様変わりして、いろいろ大変だし、だけど家に帰っても全然気持ちが休まらないじゃない。博樹を迎えに行って、ご飯を食べさせて、お風呂に入れて……。ずっと何かに追われてる感じがしてたのよ」

「ストレス解消だっていうのか?」

「ちょっとした息抜きよ」

「息抜きと無駄遣いは全然関係がないだろ……?」

「私が私でいられる時間が全然なかったのよ……! どこにいても誰かのために生きてる感じがしていた……! でも隙間時間でネットショッピングをしてるときは自由になれたの……!」

ゆかりがそこまで追い詰められていたのかと泰司は驚いた。なぜなら子育ては2人でやっていた。家事も育児も分担していたはずだから、ゆかりだけがこうまで追い込まれる理由がわからなかった。