出世への期待と家族への誓い

「やっと俺の仕事ぶりが認めてもらえたんだ。うれしいに決まってるだろ。しかもこれで成功したら出世だって間違いない」

「出世ねえ。でも仕事ばっかりになって家族の時間がなくなるのは嫌だよ」

香織の言葉に結弦は同調する。

「それはもちろんだよ。家族が最優先ってのは変わらない。でもやっぱり認められて出世できるのはうれしいよ」

「ふうん。そんなに出世が大事?」

「……正直そこまで出世欲があったわけじゃないけどな。好きな仕事ができてたらそれで十分とも思ってたし。でも家族ができると変わるもんだよ。香織や康平を守るためにも、出世してお金を稼がないとって」

「……そう。気持ちはとってもうれしいけど無理だけはしないでよ」

結弦はもちろんとうなずいて残りのビールを飲み干し、2缶目を開けた

   ◇

ノヴェラパークモールからの発注が正式に決まったという知らせが結弦の部署まで回ってきたのは、それから2週間後のことだった。

社内は10億規模の案件に沸き立っていたが、結弦は感情を表には出さなかった。

とはいえ、興奮と緊張でおかしくなりそうなのは間違いない。ノヴェラパークモールについて調べたり、同様の大規模商業施設のリニューアルの事例を調べたりしながら、提案内容を頭の中で膨らませていた。

そんな中、週が明けた月曜日の朝礼で青木が大型プロジェクトの件を報告してきた。

「みんなも噂程度には聞いてたかもしれないが今度、ノヴェラパークモールの大規模リニューアル案件をうちが任せてもらえることになった。リニューアルに際するリブランディングから集客支援までプロジェクト全体をやらせてもらえる。規模の大きい案件だが企画制作部全体でしっかりと対応していきたい。で、今回の主担当だが」

結弦は当然自分の名前が呼ばれると思い、しっかりと返事をしようと息を吸いこんだ。

「岡田に任せることになった」

呼ばれた岡田は大きく返事をした。結弦は自分が呼ばれなかったことに動揺し頭が真っ白になった。

「クリエイティブ面でのフロントに立ってもらうのは岡田だが、みんなもしっかりと岡田のことをフォローしてやってほしい。話は以上だ」

朝礼はあっけなく終わったが、結弦には何が起こったのかまったく理解できなかった。

●上司の青木から10億規模の大型案件を任されると聞き、喜びをかみ殺した結弦。だが花見を断って家族のもとへ帰ったその夜、飲み会に参加した後輩・岡田が案件の主担当に抜てきされていた…… 後編【「飲み会の勢いで担当者を決めるなんて」後輩に10億円プロジェクトを奪われ絶句…会社員男性が選んだ「復讐の一手」】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。