飲み会より家族を選んだ結弦

その日の仕事を無事に終え、帰り支度をしていると後輩の岡田が声をかけてきた。

「坂下さん、帰っちゃうんですか?」

「そりゃ仕事終わったから、帰るけど」

結弦の返事に岡田は目を丸くした。

「今日は花見ですよ? 行かないんですか?」

結弦が勤めるこの会社は毎年、4月に新人歓迎会として花見を行っていた。

結弦も過去には参加したことがあるのだが、今年は不参加を表明していた。

「俺はパス。子どもが生まれたばかりだから早く家に帰ってあげたいんだ」

昔は飲み会にも積極的に参加していたが、結婚してからどうしても出席する必要がある接待以外にはあまり出席しなくなっていた。飲み会よりも今は家族との時間を優先したかったのだ。

「あ、そういうことなんですね。分かりました」

「お前は存分に楽しんで来いよ」

結弦の言葉に岡田はうれしそうにうなずいて去って行った。

 

会社を出て家に帰った結弦は真っ先にベビーベッドで寝ている息子の康平の顔を見に行った。すやすやと寝ている子どもの顔を見るだけで1日の疲れがすべて吹っ飛ぶような気持ちになった。

夜ご飯を食べた後は妻の香織と2人で軽く晩酌をした。いつもよりもビールの味が美味い気がするのは、きっと香織にいい報告があるからだ。

「実は今度大きな仕事を任せてもらえそうなんだよ」

「……え? そうなんだ」

「ああ。まだ本決まりじゃないんだけど、部長から内々に教えてもらった。コツコツ仕事をしてきてようやくデカい仕事ができるところまで来たんだ」

「ふふ、そんなにうれしいんだ」

結弦は大きくうなずいた。