「結構な教育方針じゃないですか」
晃太郎は大丈夫と言うものの、晃一はさすがに心配だった。子どもに変なことを吹き込まないように、三者面談の際にしっかり釘を刺しておこうと晃一は思った。
それから2週間ほど経ち、三者面談の日になった。妻の理子は平日は仕事に行っているので、面談には晃一が行くことになった。
晃一は晃太郎と並んで中学校に向かい、松野先生が待つ教室の前で順番を待っていた。
やがて順番が回り、晃一・晃太郎の番になったので、教室に入る。
緑色のポロシャツ姿の松野先生は、暑いのかハンカチでしきりに汗を拭きながら、晃一に挨拶した。
「初めまして。担任の松野と申します」
挨拶も早々に、晃一は懸念点を洗いざらい話した。
自分は今でこそ投資家だが、もともと裸一貫から会社を起こし、それこそ死ぬ気で働いていたこと。そういう経歴を「成金」と見るのは仕方がないかもしれないが、子供の晃太郎は違う。安易にエリートコースに乗せないように気をつけている。そんなことを淡々と話した。
ほか、今の時代、幼い頃からお金の教育も大事になっている。だから晃太郎にもお金の話をしているが、投資家になれと言っているわけではないことも説明した。
松野先生は真剣な表情で聞いていたが、やがて口を開いた。
「あなたのことを誤解していたかもしれません。むしろ尊敬しますよ。結構な教育方針じゃないですか」
啞然とする晃一の前で、松野先生は続けた。
「私の息子は銀行に勤めておりまして。今のお話と似たことを言っていましたよ。そういう時代ですから、お金のこともどんどん教えてください」
話が通じない教師と思っていた晃一は拍子抜けする思いだった。
横目で晃太郎のほうを見ると、一人でニヤニヤ笑っている。
――晃太郎は、こうなると分かってたんだな……。
親としていろいろ心配しすぎたのかもしれない。そう思った晃一は安心するやら、自分の息子が誇らしいやらで、複雑な心境だった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
