「お父さんて、成金なの?」
そんなある日、学校から帰宅した晃太郎が、晃一に向かってこんなことを言った。
「ねえ、お父さんて、成金なの?」
神戸の友人にもらったクッキーをつまんでいた晃一は、息子の一言を聞いて、驚いたあまりせき込んでしまった。
「ゴホ、ゴホ……。な、お前、どこでそんな言い回しを覚えたんだ?」
「学校だよ。松野先生が、『君のご両親は成金だから、最低限のマナーを教えてくれなかったんだろうなあ……』って」
「ば、馬鹿なことを……」
晃一はあまりのことにショックを受けていた。
入学式の日、松野先生とたまたまトイレで会った晃一は、ハンカチを持っておらず手を洗わなかったところを見られてしまい、松野先生から嫌味を言われたのだった。晃一はその出来事をはっきり覚えていた。
そんな出来事があったので、松野先生が、晃一のことをよく思っていなくても仕方がないのかもしれない。ただ、晃一が子供の晃太郎にろくにしつけをしていないと断定されるのは間違いだ。むしろ晃一は人一倍教育熱心なほうだった。
――そもそも、「成金」呼ばわりは許せない……。
晃一は腹が立った。松野先生は自分のことをほとんど何も知らないはずだ。決めつけもはなはだしい。
百歩譲って、晃一自身を悪く言うのはいい。投資家として暮らしていると、妬まれることも多いし、多少の悪口は言われ慣れている。
しかし、晃太郎まで悪く言うのは許せなかった。
――公立中学校に入れたのは間違いだったかもしれない。
晃一の中にそんな後悔の念が沸き起こった。
ただ、当の晃太郎本人は、思ったよりたくましかった。
「大丈夫、僕そんなこと気にしてないから」
「ならいいけど……」
「松野先生て、ちょっと面倒くさい人だしさ。ただ悪い人じゃないよ」
ニヤニヤ笑っている晃太郎をよそに、晃一はますます不安に苛まれていくのだった……。
