娘の本音が爆発
検査の結果、異常は見当たらず、3人はその日のうちに帰ることができた。
助手席に乗っていた美紀子は後部座席に大人しく乗っている汐里の声をかけた。
「どうして事故を起こしたときに私に電話をしてこなかったの?」
「……別に。話が通じる方に電話をしたってだけ」
「……私じゃ会話にもならないってわけ?」
「そうだよ。こっちの話なんて全然聞いてくれないじゃん……!」
美紀子は振り向き汐里を見据える。
「あなたが変なことを言ってるのならそれを否定するわよ。でも間違ってないのなら否定したりしないわ。自分に何か後ろめたいことがあるからそんな風に思うんじゃないの?」
汐里は美紀子に向かって破裂したような大声を出す。
「間違いって何⁉ 私が思ってることを話したのにそれが間違ってるって言うの⁉ 私は楽しみたいからGPSは持ちたくないって言ったの! でもお母さんはそんな私の意見なんて全然聞いてくれないじゃん! いつもそう! 私が何を言っても全部自分の意見を押しつけてきてばっかり!」
「私はあなたのことを心配して言ってるのよ!」
「心配じゃないじゃん! ただ自分の思い通りにしたいだけでしょ⁉ 私だって期待に応えるために勉強を頑張ったりしたよ! でも何でもかんでもお母さんの言いなりになるつもりはないから! もうお母さんの価値観ばかりを押しつけられるのはうんざりだよ!」
汐里はそれだけ言うと顔を押さえて泣き出してしまった。
美紀子は肩をふるわせる汐里を見て言葉を発することができなかった。
自分のやり方が間違っていたことを痛感していた。
美紀子はゆっくりと前を見据えた。
親子の関係に溝があることは分かった。今の自分の言葉は汐里には届かないのかもしれない。だけど美紀子は言葉を振り絞った。
「……あなたに不幸になってほしくなかった。だから勉強を頑張ってほしかったの。旅行のことだって事件や事故に巻き込まれてほしくなかっただけ。思い通りにする気持ちなんてこれっぽっちもないわ。でも、ごめんなさい。受け取る側が押し付けられてるって思ったのなら、それは私の伝え方が悪かったんだと思う」
汐里は何も返さなかったし、美紀子もそれ以上汐里に何か言おうとはしなかった。
今までコミュニケーションをきちんとしてこなかったのが原因だ。親子という関係だから伝わっているものだと、甘えてしまっていたのだろう。
車は高速道路を走っていく。窓の外を見ると、西の空に沈んでいく太陽が見えた。後部座席の汐里も窓の外を眺めていて、2人の目には同じ夕日が映っていることを、運転席の孝だけが知っていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
