母が娘に伝えた本心
その日の夕食後、食べ終わるやすぐに部屋に戻ろうとする美鈴の背中に、数子は声をかけた。
「美鈴、ちょっと話があるの?」
立ち止まった美鈴に、数子は深く頭を下げた。
「本当にごめんなさい。努力が足りないなんて、何も考えずにひどいことを言っちゃって」
数子は頭を上げて美鈴を見据える。
「実は今日ね、図書館で働いてた知り合いに連絡したの。最初は仕事紹介してもらえたりしないかなって思ったんだけど、その子に言われた。司書って国家資格で、大学に行くのが必要なんだよね」
数子の言葉に驚いたのか、美鈴は目を丸くした。
「お母さん、何にも分かってなかった。受験だって、美鈴のこと応援はしてたけど、お金かかり過ぎだとも思ってて。美鈴が大学に行きたい理由とか、そういうこと、全然考えてなかった」
美鈴はしばらくの間、差し出された言葉をどう受け取るべきか迷っていたようだったが、やがて小さく息を吐くと首を横に振った。
「私こそごめんなさい。私が受験するって言ってからお母さんがパート増やしたりしてくれるの分かってたのに、ひどいこと言っちゃった」
俯く美鈴の目から涙がこぼれた。数子はシャボン玉をつかむような慎重さで近づき、美鈴を抱きしめた。
子どもに気を遣わせるなんて親失格だ。自分が望む未来に向かって一生懸命努力する娘を心から応援できなくて、何が親だ。
「ねえ、美鈴。また来年頑張ろう。お母さん、美鈴が一生懸命勉強してるのずっと見てた。努力が足りないわけないよね。足りなかったとしたら、それは私の協力だよ。次はちゃんと予備校通って、できることは全部やろう」
「でも、お金……」
「大丈夫。今年、いっぱい働いたんだから。本当は学費の分だけど、大学だって予備校だってたいして変わらないでしょう」
「全然違うよ?」
「同じだよ。美鈴の夢のために使うお金でしょ」
数子がそういうと、分厚く積もった雪を突き破り花が新芽を伸ばすような力強さで美鈴が笑った。
「お母さん、ありがとう。私、頑張るね」
「今度こそ、全力で応援する」
だから同じだけの力強さで、数子は美鈴のことをもう1度抱きしめた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
