落ち込む娘に響かなかった言葉

それから共通テストを経て美鈴は志望大学の2次試験を受けた。しかし前期後期と2回の試験を受けた結果、どちらも合格をすることができなかった。

ネットで不合格を確認した美鈴はリビングのソファで落ち込んだ表情で座っていた。まるでこの世の終わりのような表情だ。

「とりあえず今日はなんか美味しいものを食べようよ。何がいい? 出前なんか頼む? それとも食べに行こうか?」

数子は励まそうと美鈴に声をかけた。しかし美鈴は黙ったままだった。

「ねえ、そうやっていつまでも落ち込んでてもさ……」

「うるさい」

美鈴の態度に数子は苛立ちを覚えた。

「いや励まそうとしてるのに……」

「要らない。お母さんには分からないでしょ、高卒なんだから」

「なにそれ」

「だって、予備校にも通わせてくれなかったじゃない。周りの予備校に通ってた友達はみんな受かったって!」

美鈴は声を荒げた。数子の苛立ちはあっという間に膨れ上がり、沸点へと到達する。

「だいたいね、美鈴の受験にかかる費用、誰が出してると思ってるの? 世の中には自分でお金を稼いで受験するような、もっと苦労している人だっているんだよ。美鈴が落ちたのは、努力が足りなかったからじゃないの?」

言ってから、口にしてはいけない言葉だったと数子は思った。けれどすでに取り返しはつかず、美鈴は数子を睨みつけていた。

「私の気持ちなんて何も知らないくせに……!」

美鈴は言い捨てると、リビングを出て部屋にこもってしまった。リビングに残された数子は深いため息をついた。

●パートをしながら娘の受験を支えてきたシングルマザーの数子。しかし娘・美鈴は志望大学に不合格となり、励ましの言葉も届かない。つい「努力が足りなかったからじゃないの?」と口にしてしまう…… 後編【「相変わらず世間知らずなんだから」幼なじみの言葉で気づいた娘が本当に大学に行きたかった理由】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。