<前編のあらすじ>

高校2年生の娘・春を持つ円花は、東大卒の義母・静枝と同居している。陸上に打ち込んでいる春を静枝は快く思っていない。

進学先についての話題でスポーツ科学を学びたいと主張した春に対して、静枝はそれを「無駄」と一蹴。東大以外の大学は認めないと強硬に反対する。口を挟んだ円花も、自身が私大卒であることを理由に静枝から冷たくあしらわれてしまった。

対立は平行線のまま終わり、円花は静枝に「娘を説得しろ」と命じられたが、親としてどう対応すべきか答えを出せずにいた。

●【前編】「東大以外なんてあり得ない」学歴至上主義の義母と衝突する高校生の娘…夢を応援したい私大卒の母が抱えた葛藤

ぎっくり腰になった静枝

円花はテーブルの上の鍋敷きの上に白色の鍋を置いた。そして蓋を開けるとキムチの香りが部屋中に広がる。冬にはぴったりのキムチ鍋ができたことに満足し、春や裕貴をリビングに呼ぶ。

そして、台所にはもう一つ卵雑炊を作っておいたのでそれをお椀によそって静枝の部屋に持って行き、円花は布団で寝ている静枝に声をかけた。

「お義母さん、ご飯持ってきました」

「……そう」

元気なく応えた静枝の表情は暗くこわばっている。

静枝は今朝、ぎっくり腰になった。今日は1日中ろくに動けず、リビングの椅子に座ることもできないので、夜ご飯も皆とは別にして寝室で食べることになった。

「体を起こすのは無理ですよね? そのままの体勢で口を開けて下さい。私が食べさせますから」

「……分かったわ」

普段ならきっとプライドが許さず怒ってくるところだろうが、痛みのせいでその気力も失われているらしい。静枝は円花が差し出すスプーンに、素直に口を開いた。いつもこれくらい素直でいてくれたらもっと付き合いやすいのになと円花は思った。

静枝の介助を終えてリビングに戻ると、ちょうど春が洗い物をしてくれているところだった。

「お婆ちゃん、大丈夫そうなの?」

「……結構きつそうね。病院に行きたくてもあの状態じゃ無理そうだから。少し痛みが引いてからになると思う。普通は2、3日もしたら少し動けるくらいにはなるんだけどね。でもそれでも難しそうならどうにかして病院に連れて行くしかないと思う」

「ふーん、そうなんだ」

春はそれだけ言いながら、濡れた手を拭いていた。