深夜のトイレ介助

ベッドに入った円花が、部屋の外から聞こえたかすかな物音で目を覚ましたとき、時計は12時を回っていた。一瞬、物音が泥棒かもしれないと思ったが、ひそひそと聞こえてくる声が春のものだと分かると、ゆっくりと寝室のドアを開けた。

廊下の奥で春が静枝に肩を貸して移動させているのが見えた。驚いて円花は2人に歩み寄った。

「ど、どうしたの?」

春は振り返らずに説明をする。

「お婆ちゃんがトイレに行きたいって言ってるから補助してるんだよ」

それだけ言うと春は静枝に声をかけながらゆっくりとトイレまで連れて行った。

静枝がトイレをしている間に円花は春に声をかけた。

「よく気付いたね?」

「勉強してて小腹が空いたからリビングに行こうと思ったら、おばあちゃんが立ち上がろうとしてるのにたまたま気付いてさ」

春の説明を聞いて円花は納得する。そして自分ももう少し静枝に気を遣って寝る前にトイレに行くかどうか聞くべきだったと思った。

トイレが終わり、今度は円花が静枝に手を貸そうとする。しかし春はそれを制した。

「いいよ、お母さん。私がやるから」

そう言って春が静枝を寝室まで連れて行ったが、じゃあとその場を離れるのも何となく決まりが悪かったので円花は春の後についていった。再びベッドに横になった静枝は、春に驚きの表情を向けていた。

「ありがとうね。でもびっくりよ。こんな痛みもなく移動ができるなんて思わなかった。介護のやり方を学校で習ったの?」

「ちがうよ。私の先輩が同じように腰を痛めて病院で治療を受けたことがあったんだよ。私、仲が良かったからよく付き添ってて。そこで理学療法士の人にちょっと教えてもらっただけ」

それを聞いた静枝は神妙な様子で頷いていた。