――海外投資家の日本企業に対する見方には変化が出てきていますか。
先述のとおり、ここ10年の日本企業の株価は総じて右肩上がりとなっていますので評価は大きく好転しました。実際、国内投資家は売り越しに転じることもたびたびありましたが、海外投資家は買い越し基調が続いています。
海外投資家の間で、長らく日本株は先進国の中でアンダーウェイトとされていましたが、いまや無視できない存在です。ガバナンス改革の流れが続き、ROEの改善と成長率の向上が見込めるなら、これからも他のマーケットを上回るリターンを生み出す可能性は十分ある、と考えられているでしょう。
――ABの米国本社の経営陣、株式運用チームなどからはどのような声が寄せられていますか。
今回のインタビューにあたって、本社のCEOであるセス・バーンスタインに改めて意見を求めたところ、日本の株式市場は「企業の選別が重要なフェーズに入った」と答えています。表面的な変化だけでなく、サステナブルに利益を計上できる企業はどこなのかを見極めることが運用会社にとって重要になる、ということです。
加えて、これをクリアするためには、「対話の量ではなく、質が大事になる」とも述べていました。ポートフォリオ・マネジャーが投資先企業を決めるとき、企業のトップやキーパーソンに何度も取材をするわけですが、対話の回数や時間ではなく、当該企業がどうすれば継続的に成長できるのか、それに資する「質」のある対話をすることが求められるのです。
そして、こうした「建設的な対話」こそエンゲージメントそのものであり、われわれのようなアクティブハウスにおいては、運用の神髄といっても過言ではありません。ABは設立以来、60年近くアクティブ運用一筋でやってきました。世界各国の企業とエンゲージメントを行ってきた歴史と経験があります。これからは、そのノウハウを日本市場で活用できる機会が増えることになります。それはすなわち、運用会社としての差別化にもなるはずです。セスは、「ダイナミックで成長を続ける市場のひとつである日本への投資をさらに深めるとともに、エンゲージメントを通じて日本企業の成長と市場全体の活性化に貢献したい。そのために、優れた人材、技術、革新へのコミットメントを強化していく」とも述べており、グローバルからのサポートと支援の充実度を改めて実感しています。
――アクティブ運用の本領が発揮されるフェーズになった印象です。
私は、企業の持続可能性や社会的責任について運用会社が積極的に関与することは、スチュワードシップ・コードにおける中核的要素だと捉えています。それをスムーズに行うために、企業との対話を通じて、取り組みの状況を確認したり、内容の改善を促したりといった、エンゲージメント活動が大きな役割を果たします。このアクティブエンゲージメントの活動が企業の変化を促す点は、アクティブ運用がパッシブに対して優位性を持つ理由の一つといえるでしょう。
後編【NISAの相続税優遇に企業のダイバーシティ促進…日本市場の活性化に向けて求められる施策とは?】では、日本市場の活性化に向けて求められる施策について提言いただく(10月31日公開予定)。
アライアンス・バーンスタイン株式会社 代表取締役社長 阪口 和子 氏
さかぐち・かずこ/1990年オリックス入社。チューリッヒ・スカダー・インベストメンツ、シュローダー・インベストメント・マネジメント、ラザード・ジャパン・アセット・マネジメント、HSBC投信、ステート・ストリート信託銀行を経て、2018年12月より現職。2020年6月より一般社団法人日本投資顧問業協会理事。2024年1月より一般社団法人東京国際金融機構理事。2025年8月より公益社団法人日本証券アナリスト協会理事。
