かつてとは大きく変わった銀行の姿
この原則の公表以降、金融庁はさまざまな形で金融機関に「顧客本位の業務運営」の徹底を促していきます。もちろん、当初は反発があったり、投資信託の販売や収益が落ち込んだりもしましたが、「顧客本位の業務運営」が「正論」であるのは間違いなく、金融業界に徐々に浸透していったのです。一般にはあまり耳慣れない言葉かもしれませんが、金融業界の人であれば、今や「顧客本位の業務運営」という言葉を知らない人はいないといっても過言ではありません。
その影響の一例を挙げると、投資信託や保険の販売の担当者には、いわゆる「ノルマ」があるのがかつては当たり前でしたが、今は多くの銀行や証券会社が廃止しています。無理な販売で一時的に手数料を稼いだとしても、結果として顧客の信頼を失ってしまえばビジネスを継続できない。そんな危機感が、おそらく金融機関の側にもあったのでしょう。
また、銀行員はもともと「お客さまの役に立ちたい」という意識が強かったわけですから、「手数料を稼ぐため」ではなく、「お客さまのために」販売をすると考えたほうがモチベーションも高まります。「顧客本位の業務運営」によって、結果的に販売現場も活性化した面があるのです。
そして2022年、当時の岸田文雄政権が「資産所得倍増プラン」を打ち出しました。2024年には新NISAも始まり、資産運用への関心は一気に高まります。「貯蓄から投資へ」は大きく前に進んだことになりますが、それも「顧客本位の業務運営」によって、土台が固まった効果があったのは間違いありません。
新NISAの口座獲得では、今のところネット証券が優勢のようですが、もし資産運用を始めるのに躊躇していて、誰かに相談したいと考えている人がいれば、近所の銀行の支店を訪ねてみてはどうでしょう。かつてとは大きく変わった銀行の姿が、おそらくみえてくるはずです。
銀行ビジネス
著者名 菊地敏明
発行元 クロスメディア・パブリッシング
価格 1848円(税込)