各販売会社が公開するデータをもとに、編集部独自の分析で投資信託の売れ筋を考察する連載。今回は、楽天証券のデータをもとに解説。
楽天証券の投信売れ筋ランキングの2025年8月は、トップから第8位まで前月と同じになった。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」をトップに、第2位以下は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(愛称:オルカン)、「楽天・プラス・S&P500インデックス・ファンド」、「楽天・全米株式インデックス・ファンド」、「楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンド」、「iFreeNEXT FANG+インデックス」、「インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(毎月決算型)」(愛称:世界のベスト)、「楽天日本株4.3倍ブル」と続いた。そして、第9位にトップ10圏外から「楽天・日本株3.8倍ベアⅢ」がランクインした。「4.3倍ブル」とほぼ同じ金額で「3.8倍ベア」が購入されたことは、史上最高値にまで買い上げられた日本株の強弱感が拮抗(きっこう)しているということを示している。
米国「S&P500」インデックスの現実
楽天証券の売れ筋ランキングの上位を占めるインデックスファンドの順位は変わらない。トップに「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が立ち、第3位に「楽天・プラス・S&P500インデックス・ファンド」、「楽天・全米株式インデックス・ファンド」が第4位に入るなど、米国株ファンドへの信認が強いランキングになっている。2025年のパフォーマンスでは「S&P500」を上回り、他の販社では売れ筋トップになることが多い「オルカン」は第2位だ。また、米国株の中でもテクノロジー大手企業に集中した「iFreeNEXT FANG+インデックス」もパフォーマンスでは「S&P500」より優れた成績を残しているにもかかわらず第6位にとどまっている。ここから、米国株というより「S&P500」という指数に対する信認が強いと感じられる。
ただ、2024年1月に新NISAがスタートしてから毎月1万円の積立投資を継続してきた場合、2025年8月末まで20カ月で合計20万円の投資元本に対して、積立投資の評価額を比較すると、トップは「iFreeNEXT FANG+インデックス」の25万6868円。第2位は「オルカン」の22万7326円で、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は22万6888円となり、3ファンドの中では最下位になってしまう。また、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は、2025年4月の株価急落時に積立投資評価額が投資元本に対して4.45%マイナスの成績になった。同じマイナスでも「オルカン」はマイナス2.74%にとどまったことから、意外なもろさを感じさせたのではないだろうか。
もちろん、新NISAを使って積立投資をしている人の多くは、1年や2年程度の運用成績に一喜一憂せず、10年、20年という将来を見通して資産形成に励んでいる。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は「オルカン」に積立投資評価額が負けているといってもわずかな差に過ぎない。数カ月で立場は逆転していることもあるだろう。そのような運用成績の評価にしても20カ月という期間は短いといえる。ただ、「iFreeNEXT FANG+インデックス」との差は、簡単には逆転できなくなってきた。
「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が投資対象として魅力がないとは決していえない。むしろ、ここ数年のパフォーマンスだけでなく、過去10年、過去20年とふりかえっても「S&P500」指数は、非常に魅力的なパフォーマンスを残してきた。間違いなく魅力的な投資対象といえるだろう。ただ、「S&P500」に固執しているように見える楽天証券の売れ筋ランキングには、「S&P500」以外の魅力的な資産を見逃しかねない点が気がかりだ。米国株の中にも、米国株以外にも、魅力的な投資対象はあるものだ。「S&P500」だけにこだわるのではなく、もっと広い視野でファンドをみると意外と面白いファンドに出会えるものだ。