老後の生活を支える有力な手段の一つである確定拠出年金(DC)には、個人が加入するiDeCo(イデコ)と企業の従業員が加入する企業型の2つの制度があります。9月16日は2016年に個人型DCの愛称が「iDeCo」に決まった記念日です。両制度の活用と資産運用の必要性を考えるきっかけとして、FinaseeではNPO法人確定拠出年金教育協会の協力のもと、「iDeCo・企業型DCショートエッセイ」コンクールを開催しました。全国の皆さまからご応募いただいた「iDeCo」「企業型DC」に関するご自身の気持ちをつづった力作から、栄えある優秀賞に輝いたニックネームせいさんの体験談をお届けします。

社内でiDeCo資産を公開、その後の悲喜こもごも

「俺、今月はカップラーメンで生き延びます!」

月半ば、冗談めかしてそう言う新入社員の声に、私は思わず眉をしかめた。

2016年当時、エンジニアを派遣する中小企業で総務を担当していた私は、月末の伝票を処理しながら、若い社員たちが給料を使い切ってしまう様子を、母のような気持ちで案じていた。

そんな折、「翌年1月からiDeCo(個人型確定拠出年金、イデコ)の加入対象が広がる」というニュースに触れ、まずは自分が資産形成を始め、彼らに伝えてみようと決意した。

2017年1月から拠出を開始し、資産の推移を資料にまとめ、月例会で公開する。最初は反応が薄かったが、たまたま資産が増えていた月のグラフを映すと空気が変わり、2人が加入を検討してくれた。

仲間ができた喜びと、数字の説得力を知った瞬間だった。

しかし、公開を重ねるうちに、短期の値動きに視線が集まる場面が増え、意図せぬ方向に進む怖さを知った。

それでも家族や友人にまで成績を語ってしまい、ほどなく一人の友人と連絡が途絶えてしまった。

最後のメッセージは「また今度ね」。

既読のまま秋が過ぎ、街の木々が色を失ったころ、私は数字を人前に出すのをやめた。

あれから転職を経て、その後、iDeCoの移管も経験した。

2019年の「老後2000万円問題」のときも、自分の家計と拠出額、リスクの取り方を見直すだけで落ち着いていられたのは、毎月の積み立てが未来の自分を守ると信じられたからだった。

おごらず、慢心せず、正しく情報を伝えられる人でありたい。

未来を照らす小さな灯りを道標に、これからも確かな一歩を積み重ねていきます。