今、世界経済は大きな混乱を迎えています。
朝令暮改するトランプ大統領の政策。ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルのガザ攻撃。
日本では、日経平均が最高値を更新し、賃金上昇が続く一方で、物価高が続いています。
先の見えない世界経済はどこに進んでいくのでしょうか?
超人気エコノミストの河野龍太郎氏と唐鎌大輔氏が世界経済と金融の“盲点”について、あらゆる角度から徹底的に対論します。(全3回の1回)
※本稿は、河野龍太郎/唐鎌大輔著『世界経済の死角』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
「日本は生産性が低い」という誤解
河野 2023年、日本のGDPがドイツに抜かれ、世界第4位に転落したというニュースが注目を集めました。
唐鎌 こういう報道に触れると、「私たちの働きが足りないからだろうか」「もっと頑張って働かなければいけないのか」と、何だか責められているような気持ちになりますよね。
河野 働く人々の賃金は、みんなが一生懸命に働いたから増えるとか、働きぶりが悪いから増えないとか、そう単純なものでもありません。
唐鎌 冒頭でも触れたように、私たちの暮らしやすさは「賃金」と「物価」のバランスによって決まるものです。たとえば、賃金が2倍になっても、モノやサービスの値段も2倍になれば、実際の生活の豊かさは変わりません。先ほど河野さんがおっしゃったように、「物価を考慮した実際の賃金」を「実質賃金」と呼びますが、この実質賃金の取り扱いは、世間で言われているほど簡単ではないですよね。
河野 まず、時間当たり実質賃金は、1998年から2023年までの間、日本ではまったくの横ばいでした。正確に言うと、最近の円安インフレの影響で、1998年に比べると2023年は3%ほど低い状況です。この実質賃金を左右する要因は「生産性」や「交易条件」、「労働分配率」などいくつかありますが、よく引き合いに出されるのが生産性ですね。
唐鎌 この生産性というフレーズが、いつも曲者(くせもの)だと思います。
河野 生産性とは「産出量」を「労働投入量」で割ったものです。産出量を「働いた人の人数」で割ったものが「一人当たりの生産性」です。産出量を「投入した総労働時間で割ったもの」が「時間当たりの生産性」です。
おおざっぱに言えば「いかに効率よく産出しているか」ということです。
賃上げについて議論すると、企業の経営者は、よく「生産性を向上させなければ、賃金を上げられない」と言います。