唐鎌 生産性が上がれば、企業の儲けが増えるので、賃金の伸び悩みを解消しやすくなることは一応、間違いではありませんよね。しかし、そもそも日本の生産性は、イメージされるほど低いのでしょうか。大前提となるこの点を確認させてください。
河野 日本の生産性は低迷が続いているのかというと、実はそれほど悪くはありません。日本における時間当たりの生産性の推移を見ると、1998年から足元までで30%ほど改善しています。ヨーロッパの経済大国であるドイツやフランスと比べると、生産性の改善は、実は日本のほうが上なのです。
唐鎌 OECD統計を通じた国際比較を基に、私も常にその違和感を抱いていました。
日本の生産性はすでに世界でも上位層にあるのに「生産性を上げれば日本の問題を解決できる」と言われても、響きません。「ここから生産性を上げることは悪いことではないものの、本当に問題なのはそこではないのでは?」と言いたくなります。
河野 もし「日本は生産性が低迷しているから実質賃金が低迷している」という主張が正しいなら、日本より生産性の改善が劣るヨーロッパの実質賃金は、さらに低迷しているはずです。ところが、実際にはそうなっていません。
日本より生産性の改善が劣るフランスやドイツの実質賃金は、そこそこ改善していて、まったく改善していない日本からすると、うらやましい限りです(図表1-1、図表1-2)。
そこで、よく比較対象として持ち出されるアメリカを見てみましょう。アメリカでは同じ期間(1998~2023年)に時間当たり生産性が5割上がり、それに伴い時間当たり実質賃金も30%近く増えました。だから「日本もアメリカ並みに生産性を上げれば、実質賃金も上がるはずだ」と言うエコノミストが多いのです。
唐鎌 結局、生産性をそこまで引き上げられるパワーがあるのは、世界中を見渡してもアメリカくらいだと。これは納得感があります。
よく「なぜグーグルやアップルが日本に生まれないのか」という論調を目にすることがありますが、「いや、ドイツにもフランスにもないよ」と(笑)。
河野 アメリカがずば抜けている、ということですよね。
世界経済の死角
著者名 河野龍太郎/唐鎌大輔
発行元 幻冬舎新書
価格 1320円(税込)