買った株が急落してしまった……

個別株へ投資していたら誰しも陥るトラブルに、どのように対処したらいいのでしょうか?

投資顧問として活躍する栫井駿介さんに、物語をベースに解説してもらいます。初回は、架空の人物・波野を主人公に、持っている株が下がった時の投資家の心理に迫ります。(全3回の1回)

※本稿は、栫井駿介著『買った株が急落してます!売った方がいいですか?』(ダイヤモンド社)の一部を抜粋・再編集したものです。

買った株が急落!

「ひばり投資診療所……?」

 ふと顔を上げると、視界にそんな看板が飛び込んできた。ここは病院なのか? それとも投資セミナー屋?

 そんなことはどうでもいい。しばらく呆然としていたようだ。営業先から会社にも帰らず、吉祥寺で降りて井の頭公園をフラフラするなんて、まるで典型的なダメリーマンじゃないか。

 いや、今の俺はそんなダメリーマン、ダメ投資家そのものだ。これまでの人生でこんなに打ちのめされたことはない。まさか、たった2週間で400万円も損してしまうなんて。妻と娘にどんな言い訳をしたらいいんだ……。

 メンタルがやられている。こんな時は会社の産業医に相談すべきだと、先日課長昇進研修で教えられた。しかし、今俺の眼前にあるのは、「投資」診療所という聞いたこともない診療科だ。白壁のところどころが剥がれ、配管は錆びつき、廃墟のような寂しさを漂わせている。

 でも、今の自分にとって、これ以上にふさわしい病院もないのも確かだ。何よりマイナス4 0 0万円の苦しみから解放されたい。

「こんにちは……」

 中を見渡してみたが、医者も患者も見当たらない。ドアは開いていたから、今は昼休みなのか、それともやっぱりただの廃墟なのか。

 壁には「過去100年のダウ平均株価と日経平均株価」と書かれたチャートのポスターが掲げられている。100年という長さは初めて見たが、今はチャートを見ただけで吐き気がする。

 帰ろう。ここにいても、メンタルが悪化するだけだ。そう踵を返した瞬間、扉が開き誰かが入ってきた。