白衣を着て眼鏡をかけた、30代半ばと思われる、いかにも「美人女医」という感じの女性だ。
「おや、あんた患者?」
「はい、まあ一応」
「うちは完全予約制なんだけど、まあ暇だからよかったら中で話聞くよ。入口でそんな辛気臭い顔されちゃ、ただでさえ閑古鳥が鳴いてるってのに、いよいよホラースポットになっちまう」
初対面にしては、かなり口が悪い。
「すみません、近くを歩いていたら見かけたもので。『投資診療所』って、ファイナンシャルプランナーみたいな感じですか?」
「ファイナンシャルプランナーねぇ。まあ私らは保険とか売ったりしないから、そのへんは安心しな。ほら、プライバシー守りたかったら、中入って」
答えになっているのか、なっていないのか。追い立てるように案内されて横開きの扉を入ると、病院の診察室そのものだ。おそらく、内科か何かの居抜きだろう。診療所のベッドもそのまま置いてあるので、ついついよからぬ想像をしてしまいそうになる。
「まず、あんたの名前と年齢」
パソコンのあるデスクに座った女医が話しかける。
「波野衿人、38歳です」
「職業は?」
「会社員で総合商社の営業です」
「年収は?」
ガツガツ聞いてくるな……まあ投資だから必要な情報か。
「1000万円をちょい超えたくらいです」
年収を聞かれるのは誇らしい。もしかしたら、これが人生で最も誇らしい瞬間かもしれない。
「ふ~ん。で、金融資産額は?」
流された。これが合コンだったら女の子は絶対放っておかないところだぞ。ちくしょう。それに、資産額は今一番聞かれたくない質問だ。
「実は俺、少し前まで海外勤務していて、海外手当やら円安で貯金が増えて、気がついたら1000万円になってました。そのお金で株を買って、最初はよかったんですが」
「ですが?」
「それが、買った株が大きく下がって今は含み損ですが、400万円減ってます。これから戻ると思うんですけど」
「戻ると思う? その根拠は?」
「ええと、SNSでもみんな良いって言ってますし、それに前にそうやって投資したら結局上がったんですよ。だから今回も大丈夫だろうって……」
「あんた一体何年生きてんの? そんな甘っちょろい考えで儲けられるなんてよく思ったわね」
胸がズキンとした。返す言葉が見つからない。顔が紅潮し、汗が噴き出した。ここにいることが恥ずかしく、気が付いたら椅子から勢いよく立ちあがっていた。
「す、すみません! 出直してきます!!」