2001年に政府が打ち出した「貯蓄から投資へ」。この流れは、新NISA制度などの手助けもあり、ますます加速しています。
個人による投資が拡大する中、人々のお金を預かる銀行でも大きな変化が起こりました。
2000年前後に始まり銀行の新たな業務として拡大・定着した投資信託や保険の窓口販売、通称「窓販」の世界から、その変化について論じます。(全3回の1回)
※本稿は、菊地敏明著『銀行ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を抜粋・再編集したものです。
銀行は「お客さま第一」ではなかった?
リーマン・ショック以降、窓販は一時の勢いを完全に失い、投資信託(公募株式投信)全体の残高に占める銀行経由の比率も再び証券会社に逆転され、さらにその差が開いていきました。また、リーマン・ショックの余波が広がる中で世界的に株式市場の低調は続き、「貯蓄から投資へ」の流れは逆戻りしている感すらありました。
しかし、さらに進展する少子高齢化もあって、自助努力で老後資産を形成する必要性は増していましたし、企業に投資資金を回すことで経済を活性化し、バブル崩壊以降の「失われた30年」から脱却するためには、やはり「貯蓄から投資へ」の推進が不可欠である状況にも変わりはありません。そこで動き出したのが金融庁で、金融機関に「顧客本位の業務運営」を求めていくようになるのです。
「顧客本位の業務運営」とは、ごく簡単にいってしまえば「お客さまの利益を第一に考えて業務を行うこと」となるでしょうか。ずいぶん当たり前のことのように思えるかもしれません。しかし、リーマン・ショック以降の窓販では販売が落ち込む中、分配金の高さのみを強調した販売や、一部では手数料稼ぎの「回転売買」さえ行われるようになっていたのです。もちろん、それは銀行だけではなく、証券会社も同様でした。当時は金融機関全体への信頼が、低下していたのも事実でしょう。「貯蓄から投資へ」を前に進めるためには、本来その旗振り役であるべき金融機関が信頼されなければならない。それが金融庁の問題意識であり、2017年には「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表します。これは「顧客本位の業務運営」を進めるにあたり、「有用と考えられる原則」を金融庁が示したものなのです。
そして金融機関に対して、この原則を採択したうえで、「顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定し、当該方針に基づいて業務運営を行うこと」を求めました。現在、ほとんどの銀行や証券会社のホームページには、この方針や取組状況が公表されていますから、ぜひ確認してみてください。