2001年に政府が打ち出した「貯蓄から投資へ」。この流れは、新NISA制度などの手助けもあり、ますます加速しています。

個人による投資が拡大する中、人々のお金を預かる銀行でも大きな変化が起こりました。

2000年前後に始まり銀行の新たな業務として拡大・定着した投資信託や保険の窓口販売、通称「窓販」の世界から、その変化について論じます。(全3回の2回)

※本稿は、菊地敏明著『銀行ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を抜粋・再編集したものです。

「販売」から「コンサルティング」へ

「顧客本位の業務運営」が浸透したこともあって、窓販のあり方、特に販売現場の提案の手法はここ数年で大きく変化しました。かつては商品を販売することが目的であり、新しい投資信託や保険商品が出れば、「こんな新商品が出ましたけど、どうですか?」といった提案もしばしば行われていたようです。いわば「商品ありき」の販売だったのです。

もちろん、そのこと自体は必ずしも悪いわけではありません。もともと銀行の顧客には高齢者が多く、退職金などのまとまったお金を運用したいと考え、より良い商品を求めて銀行を訪れる人も少なくありませんでした。そんな顧客に対しては、銀行としてのお勧め商品を案内するというやり方もあっていいはずです。

一方で、若い世代の人であれば、そうしたやり方が適しているとはいえないでしょう。そもそも資産運用の目的は商品を買うことにあるのではなく、あくまで商品は目的達成のための手段でしかありません。その目的は人によって違ってはいるものの、老後の備えのために資産運用をするという人が、最も多いのではないでしょうか。

若い世代の人が老後の備えのために資産運用をするのであれば、商品を選ぶよりも先に、本来は今後のライフプランを考えるべきです。人生には結婚や出産、マイホームの購入などのさまざまなライフイベントがあり、それぞれに資金が必要になります。

一方で現在の資産と収入がどれくらいで、将来はどれくらいが見込まれるのか。そのうちどれくらいを運用に回せるのか。さらには、万一の備えとしての保障をどうするのか。そして将来的にいくらくらいの資金が必要で、最終的に運用によってどれくらい増やしたいのか。そうしたライフプランを考慮して資金計画を練る作業は、ファイナンシャルプランニングと呼ばれています。

最近の銀行はこのファイナンシャルプランニングに力を入れていて、プランができあがれば、後はそれに沿って最もふさわしい投資信託だったり、保険だったりを選べばいいわけです。そうした提案手法は、コンサルティング営業とも呼ばれています。具体的な金額を入力することで、さまざまなシミュレーションを行えるツールが用意されている場合も少なくありません。

また、マイホームの購入を考えている人であれば、住宅ローンについてもあわせて相談できる点が銀行の大きなメリットになるでしょう。多くの人にとって、マイホームは最大の買い物になるでしょうから、すでに銀行で住宅ローンを組んでいる人であれば、その銀行で資産運用に関しても相談すると、より精緻なファイナンシャルプラニングが期待できるはずです。

もちろん、ファイナンシャルプランニングは若い世代の人だけに必要なわけではありません。「人生100年時代」といわれて久しい今、「老後」と呼ばれる期間も長くなっていますから、現在の資産や年金額などを踏まえ、その資産の寿命をいかに伸ばすかを考える必要があるでしょう。高齢者にとっても、今後は資金計画が重要になるのです。