しっかりやってこいよ

「でかいなぁ……」と呟いたのは信一郎。見上げる先には古城のように威厳のある建物がそびえている。

「お父さん、大学初めてだもんね」

「挙動不審になってたら恥ずかしいからしっかりしてよ?」

「分かってる。結子の父親らしくしゃきっとするさ。むしろ結子のほうこそ、緊張してるんじゃないのか?」

「してないよ、別に。たかが入学式だもん」

真新しい黒のスーツに身を包む結子は背筋を伸ばして胸を張る。真っ直ぐに前を見る横顔を夏海は頼もしく思う。

3人並んで校門脇の立て看板の前で写真を撮る。学内の大ホールに向かって歩いていると、満開の桜並木が出迎えてくれる。

「2人とも、父兄の受付はあっちだって。また後でね」

試験のために何度か来ただけなのにもうすっかり物知り顔で案内する結子に、夏海と信一郎は思わず顔を見合わせて笑みをこぼす。

「しっかりやってこいよ」

「またあとでね」

「うん、2人とも、ありがとう」

結子が受付の列の最後尾に向かって進んでいく。春の風に散っていく桜の花びらに背中を押されるように、前へ、前へと進んでいく。