夫の食べつくし癖は改善したのか……?
「まさか佳織があんなにキレるとはね」
「もうやめてよ。あのときはなんかもう許せなくなって、つい怒っちゃっただけだから」
もう半月も前の話を持ち出して笑う美彩に、佳織は顔から火が出るような思いになる。恥ずかしさを紛らわすように、紅茶で唇を湿らせる。ふと横を見れば、キャラクターもののパズルを床に広げて遊んでいる大輝と小夏の姿が見える。
「ちなみにあのあとどうしたの?」
「どうしたのって、本当に次の日の朝、タルト5個買ってきたから、私と大輝で2つずついただきました」
「え、本当にやらせたんだ。面白すぎるでしょ。……ってそうじゃなくて、食べ尽くしの話。よくなった?」
「んー、どうだろう。まあでも、食べる前に聞いてくるようにはなったかな。それと、今はもう食事の時間別にしてるから。しょんぼりしてる」
「やっぱり1回ガツンと言って正解だったでしょ?」
「さすがにちょっとかわいそうになってくるけどね。そろそろ食卓くらいは一緒にしてあげてもいいかなって思ってる。もちろんまたやったら逆戻りだけど」
佳織はそう言って笑っておく。
あの日、啖呵を切って礼司を追い出したあとはどうなることかと思ったが、家庭はうまく回っている。何より、これまでは無意味な我慢を一方的に強いられていたのだと気づくことができたし、ストレスがなくなったことで清々しい気分でもある。
「大輝くーん、小夏、そろそろおやつにしよ。佳織が買ってきてくれたケーキがあるよ」
美彩が声をかけると、「ケーキ!」と目を輝かせた子どもたちがテーブルに駆け寄ってくる。箱のなかには色とりどりのケーキが4つ、行儀よく並んでいる。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。