新しい経営方針を公表 2030年度までに純利益1.7倍、ROE 10%以上を設定

より長期の見通しも確認しておきましょう。三井不動産は2024年4月、新しい長期経営方針「& INNOVATION 2030(アンド・イノベーション・2030)」を公表しました。2031年3月期を最終年度とする計画です。

長期経営方針では定量目標が掲げられました。成長性と効率性の指標として、それぞれEPS成長率とROEを設定しています。

EPSは1株あたり純利益、ROEは自己資本に対する純利益の割合です。2030年度前後を目標に、EPS成長率は年間8%以上、ROEは10%以上を目指します。なお、マイルストーンとして2027年3月期まではより多くの目標が設定されています。

【長期経営方針の主な財務目標】

 

※EPS成長率の実績は2017年3月期比の幾何平均
※総還元性向と配当性向の実績は2024年3月期時点の予定

出所:三井不動産 長期経営方針「& INNOVATION 2030」および決算説明会資料
 

財務目標の到達期を2031年3月期と仮定すれば、EPSが毎年8%以上で成長したとき、株式数が変わらないなら純利益は2024年3月期から1.7倍以上に増加します。

三井不動産は「三本の道」とする事業戦略で成長を目指します。三本の道とは、コア事業の成長、新アセットクラスへの展開、新事業領域です。コア事業の成長は海外事業の強化など、新アセットクラスへの展開はラボ&オフィス事業やデータセンター事業などです。新事業領域は、注力分野を見極めて投資を実行します。

三本の道の推進に向け投資も積極化します。コア事業は成長投資として2026年度までに2兆円程度、新事業領域は2030年度までにM&Aで4000億円以上、スタートアップ出資で1000億円以上を投じる計画です。

さらに株主還元にも資金を振り向けます。上記の財務目標は、純利益と同時にROEも上昇させる計画です。したがって、ROEの分母となる自己資本は、利益剰余金の積み上がりをこなしつつ減少していなければなりません。つまり株主還元も相応の規模で行われることが期待されます。

計画では2027年3月期までの毎期で総還元性向50%以上を目指すことが設定されました。自社株買いが行われればEPSの上昇にも寄与するでしょう。三井不動産は2027年3月期までの株主還元の額を4000億円程度と見積もっています。

今期(2025年3月期)は長期経営方針の初年度です。売り上げや利益だけでなく、長期経営方針への進捗も注目を集めるでしょう。第3四半期の決算は2025年2月、本決算は同年5月に公表の予定です。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)