若年性脳梗塞で倒れた友人
そうして1カ月が過ぎたあるとき、学生時代から仲の良かった美希が倒れたと連絡があった。幸い命に別状はないのだが、隣県の病院に入院していると聞き、詩織は次の休みの日、車を飛ばしてその病院へと向かった。
「お見舞いありがとうね、忙しいのに」
病室に入ると、ベッドに腰をかけた美希が笑って迎えてくれた。
「全然。もう連絡もらったときは心臓が飛び出るかと思ったよ~。昔は病気知らずで有名だったのに、何があったの?」
「いや、仕事中にいきなり倒れちゃってさ」
「え、なにそれ。怖いじゃん」
「ほんとね。医者が言うには若年性脳梗塞だって」
脳梗塞という病名に詩織は息をのむ。高齢者が脳梗塞を起こして、倒れるという話は聞いたことがあったが、まだ40代前半で起きる病気だということに驚いたのだ。
「まだ若いのに、脳梗塞なんてなるんだ……」
「だから、若年性っていうみたいよ。若い人でも脳梗塞を起こすことがあるんだって」
「そうなんだ。怖いね……もう大丈夫なの?」
詩織の問いに美希はうなずく。
「初期段階で見つかったら、治療すれば、問題なしだって。退院したら、普通に働けるみたいだし。まあ、いい休養になったって感じ」
あっけらかんと笑う美希を見て、詩織はつられて笑った。
「でも、美希が脳梗塞なんてね……」
「うーん、普通ね、脳梗塞の原因って、血圧が高かったり、中性脂肪が高かったりする人がなりやすいんだって」
「え……?」
美希の説明に詩織は言葉を失う。
「でもね、私、健康診断でもそういう数値、全部正常だったのよ。だから、医者も原因は分からないって言ってた。それが1番怖いじゃない? また再発するの怖いから、どういうことに気をつければいいか、分からないっていうのがちょっと気がかりだよねぇ……。ね、詩織もそう思うでしょ?」
「え? あ、うん、そうだね……」
美希に名前を呼ばれて、反射で返事をした。
それから美希と他愛(たわい)のない会話をしたが、中性脂肪のことがずっと頭から離れなかった。