ひと回り大きくなった背中

それから半年後、骨折も完治した孝は無事にオーストラリアへの留学を勝ち取った。里奈も休みを取って、空港へとやってきていた。

「1年かぁ、寂しくなっちゃうね」

冗談めかして言うと、孝は思いのほか申し訳なさそうに眉尻を下げていた。

「大丈夫。夏休みとかにはちゃんと帰ってくるから」

「いいよ、無理しないで。向こうでできる友達と遊んだりもするでしょ。気のすむまでとことん英語漬けになっておいで。あ、もちろんホームシックになったらいつでも帰っておいでね」

里奈は孝の肩をたたく。いつの間にか、身体も心もすっかりたくましくなっている。

「ありがとう。母さん」

「いってらっしゃい」

「うん、いってきます」

スーツケースを引きながら歩き出した息子の後ろ姿を、笑顔で見送る。ほんの少しだけ、そのいとしい背中の輪郭がにじんだ。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。