お客さまの信頼を測るバロメーターを評価の軸に
では、収益目標を廃止したMUMSSは、何を指標にして従業員を評価するのか。「まずは預り資産の純増額で、それはお客さまからの信頼を図るバロメーターでもあるからです」と浜田氏は話す。「さらに独自に設定している『メイン化』という指標や、第三者機関を使って測るお客さまの満足度などが評価のポイントとなるのです」
この「メイン化」については、顧客にどれだけソリューションを提供できたのかなど、顧客との関係の深さ、接点の多様さを数値化したものだという。これらの指標に基づく評価は、結果的に収益と高い相関がみられることも明らかになった。
「三位一体」のもう一つの改革である「処遇」については、長期担当総合職制度を新たに導入し、総合職ではあっても転勤はなく、プレーヤーとして顧客に伴走し続けるという道も選べるようになった。もちろん、その道を選べるのは一定の基準を満たしたプロフェッショナルのみ。一方で、やはりマネジメントの道を選択したいと思い直した時のために、一度だけ元の総合職に戻れる仕組みも取り入れている。
最後の「店舗チャネル」の改革については、都市部集中型の24の本支店に集約させ、さらに従来の営業所をブロックと名称変更し、こちらも37にまで絞り込んでいる。「ウェルスマネジメントのビジネスモデルは来店誘致型ではありません。百貨店の外商のように、私たちからお客さまのところに出向くのが基本ですから、もはや看板すら掲げる必要がないのです」(浜田氏)。
リスクオリエンテッドなポートフォリオ構築
続いて、MUMSSの運用に対する考え方を確認しておきたい。多様なソリューションの提供が求められるようになったとは言え、証券会社である以上、そのベースとなるのが運用であるのは間違いない。
同社では顧客のゴールを確認したうえで、ポートフォリオを構築するのが基本だが、「最も重視しているのがリスク」だと浜田氏は強調する。「私たちの仕事はお客さまのリターンを最大化するのではなく、お客さまが取るべきリスクの範囲でいかにリターンを最大化するか。いわばリスクオリエンテッドなポートフォリオの構築が不可欠になるのです」
その際に必須となるのが、ポートフォリオ提案ツールの活用だ。「単品の商品を勧めるとプロダクトプッシュになってしまうのではないかと誤解されたりもしますが、ポートフォリオを分解すれば当然、個別商品になりますから、それをご案内することに何ら問題はありません」と浜田氏は続ける。「要はそうした個別商品をポートフォリオでしっかり管理し、お客さまのゴールに近づいているのかを確認すること。そのためにはテクノロジーの活用が必須で、ツールを使えないアドバイスはもはや無免許運転だとすら言えるでしょう」
さらに、「1986年にBrinsonが唱えた、『ポートフォリオの93.6%はアセットアロケーションで決まる』という説がある」と浜田氏は語る。株式・債券の銘柄選定よりも、資産配分が重要だということだ。「今はアクティブとインデックスは両極化が進んでいる。βを取りに行くには、コストが低いインデックスファンドで十分。一方で、αについては、特徴あるアクティブファンドやオルタナも活用し、全体のポートフォリオを構築していくことが重要なのです」と浜田氏。
加えて、「リスクの分析は過去のレコードから導くもの、即ちバックミラーを見ることが重要となる一方で、リターンはフロントガラスの向こうにある、これからの環境の変化を見通す必要がある」と浜田氏は言う。そこで重要になるのが、同社の独自のハウスビュー「GMAP(Global Macro & Assetallocation Perspectives)」だ。これにより、アドバイザーがそれぞれの相場観で営業するのではなく、共通した見通しのもとでの提案が可能となり、モデルポートフォリオも提示されている。
「Quality(質)×Quantity(量)」で進化を続ける組織
ここまで見てきた通り、MUMSSの改革は着実に成果をあげてきているが、「課題も多い」と浜田氏は気を引き締める。「アドバイザー1人当たりの収益は、われわれが当初想定した以上に伸びているが、規模で見るとまだまだ小さい。現在の効率性を保ちつつ、今後は規模も拡大していきたいですね」
同社では現在、新卒採用はもちろん、中途採用も積極的に行うなど人材の強化を図っている。しかも、その人材は多彩であり、金融業界以外にも製薬会社や不動産会社の出身者など多岐にわたるという。「今のアドバイザーに最も必要な資質は、お客さまの話を聞く能力です。まずお客さまに話していただけなければプロファイリングはできませんし、お客さまのウィッシュを引き出すこともできません。もう1つ不可欠になるのが発想力で、何をすればお客さまが喜んでくれるのか、イメージできることも重要なのです」(浜田氏)。
顧客のウィッシュを把握し、その解決の道筋をイメージすることが重要で、それ以降の処方せんを書くのは本部の役割であり、そこではテクノロジーの活用が求められる。だからこそ、「今後はこれまで以上にテクノロジーを積極的に取り入れ、ペーパーレス化やシステム改善による業務効率化もさらに進めていきたい」と浜田氏。「自分たちの最大のライバルは今日の自分です。私たちは常に理想を求め、変化し続けなければならないのです」と締めくくってくれた。
「クライアント・ファースト」「収益は後からついてくる」など、いわば「きれいごと」を通し続ける一方で、着実に成果もあげてきたMUMSS。その革新的なビジネスモデルは、ここ数年、資産運用業界に問われてきた「顧客本位の業務運営」の答えの1つだとすら言えるのかもしれない。