――今年1月のNISA拡充は、中長期的に見て国内市場にどのようなインパクトをもたらすでしょうか。
海外株式市場を選好してきた国内個人投資家の行動様式には、既に変化が見られます。1月の新NISA開始直後は米国株の投信や個別株の買い付けの多さが目立ちましたが、よく調べてみると、日本株投資の割合も予想以上の水準でした。株価上昇局面でも買いが勢いを維持しており、逆張りに偏っていた投資パターンが変わりつつあるようです。
また20年間続いたデフレ期には、店舗も設備も過剰供給という問題を抱え、投資対象として日本企業の魅力が見えにくい状況が続いていました。足元で物の値段と賃金が上昇しつつあることは、いわば日本が「普通の市場」になりつつあることを意味しています。
日本株は世界金融危機以降、基本的に右肩上がりの成長を続けていることから、資産形成の主体となる20~ 30代が、直接的な為替リスクの少ない通常の投資対象として日本株を捉えられる状況が整いつつあります。「日本株でいい思いをした記憶がない」という私たちの世代とは異なる、「日本株で損をしたことがない」という認識の新たな層が形成されつつあるのです。
このタイミングでNISA制度が拡充され、積み立て投資によって毎月一定規模のフローが生み出される仕組みができたことは、成長資金を提供できる市場環境の整備という観点でも大きな意義があると思われます。
一方で海外投資家からは、日本企業が将来的に海外の労働力をどの程度取り込めるかについて質問を受ける機会が増えています。政府は人口減少の中でも国の経済成長力を高めるため、先端技術開発やスタートアップ企業の支援策などを打ち出していますが、この部分での政策的な取り組みの余地はまだ大きいと考えられます。外国人労働力の拡大が日本の成長にどれくらいつながるかが、引き続き世界の投資家にとって大きな関心事となるでしょう。
私たちとしては今まで同様、サステナビリティを意識した経営について投資先企業への働き掛けに注力します。日本企業が環境問題の解決を含めた総合的な「リスク管理能力」を有しているかという観点が特に重要になるでしょう。リスクをコントロールできる能力の有無は、将来の利益に対する不確実性を見通すという意味で、株価の評価に影響を及ぼすからです。
――日本株への投資戦略として、注目しているセクターはありますか。
半導体領域の成長には、生成AIへの注目度の急速な高まりを背景に、引き続き強い関心を持っています。また金利上昇の期待が続く状況下では、金融セクターもいまだ割安の状態にあると思っています。特に資本政策の変更に伴う政策保有株の解消は、マクロ環境の変動に依存せず株価を支える要因として期待を持っています。
――投資家にとって、日本株投資の位置づけはどう変わるでしょう。
これまでは特に機関投資家のポートフォリオにおいて日本株に与えられた役割は、必ずしも大きくなかったかもしれません。ただし、東証による改革要請を受けたさまざまな状況変化を背景として、日本株が長期投資に耐えうる資産クラスの一つになったという認識を改めて持っていただくことは大切だと考えています。
日本株のユニークさは、銘柄選択の余地の大きさにあります。ベンチマークとなる指数の構成銘柄が多いために、先進国株式市場の中でもアルファを獲得しやすい性質があるのです。指数全体をパッケージとして見る限り、TOPIXの独自性を把握することは困難ですが、埋もれた企業を発掘するアクティブ運用となると、他国市場にない魅力を見いだすことができます。
日米金利差の縮小を受けた急速な円高などダウンサイドリスクを念頭に置く必要があるとはいえ、海外資産を含めたポートフォリオ全体としてベストな資産配分を検討するうえでは、日本株のそうした特徴に着目することも有効でしょう。