人生100年時代、多くの人が自身で資産をつくる必要性に気づき、「投資」の存在が一般的になりつつあります。2024年から新NISAが始まり、12月にはiDeCoの拠出限度額一部見直しも予定されるなど、制度や仕組みもそうした機運を後押ししています。

その一方で、「投資にスポットが当たれば当たるほど、“ライフプラン”の実現という本来の目的が見失われるリスクが高まっている」とファイナンシャル・ウェルビーイングの第一人者、井戸照喜氏は指摘します。

そんな井戸氏がマネープラン全体をとらえることから始め、そのうえで多くの人にとって相応しいと想定される「マネープランとしての投資」を解説する、話題の書籍『ファイナンシャル・ライフ・エンジニアリング』より、特別に一部を公開します(全2回)。

第2回では、人生の選択肢を広げる手段としての「お金を借りること」、「住まいを金融資産に変換すること」について見ていき、最後に井戸氏が「借金」について考えるときに思い出すという“あるエピソード”を紹介します。

●第1回:資産形成というときの“資産”とは? 真っ先に“お金だけ”が思い浮かんだ人は知らない…お金以外の「重要な要素」

※本稿は、井戸照喜著『ファイナンシャル・ライフ・エンジニアリング ――したたかに”楽しむ”!洗練された「人生の経営者」を目指して』(金融財政事情研究会)の一部を抜粋・再編集したものです。

「ヒト、モノ」と「金融資産」のギャップを埋める「奨学金・住宅ローン等」

⑴ 「借りる」という行為のメリット

今、自分がもっている資金だけではかなわないことができるようになる、という観点では、「お金を借りること」も「選択肢の拡大」であるといえます。

例えば、今どうしても欲しいモノやサービスがあるけれども、手持ちのお金が足りない場合や、家計の事情から手持ちのお金は使えない、使いたくない場合、お金を借りることでモノやサービスを手に入れることができます。

「お金を借りること」の代表例として、住宅ローンがあります。住まいを購入するには一般的に何千万円ものお金が必要となりますが、一度にそんな大金をポンと出せる人はそう多くはないでしょう。そこで、金融機関などからお金を借りて、住まいを購入することになります。返済型の奨学金や教育ローンも、「教育」というサービスを受ける目的で「お金を借りること」です。

⑵ 「お金を借りる」前にふまえておきたいこと

「借りる」という行為にも、大きく分けて「2つの種類」があります。具体的には、「資産を形成するための借入」と「身の丈以上の消費のための借入」です。

まず「資産を形成するための借入」ですが、例えば、不動産という資産を取得するための借入や、自身の経験・能力を磨くため、つまり人的資本を形成するための借入は、必要な時期に必要な金額を工面するためであり、その人のライフイベントとして重要な取組みを支えるものです。

一方で、「身の丈以上の消費のための借入」は、今の収入規模からすると予算オーバーしているのだけれども欲しいモノを買うために借金する、派手な生活をするために借金する、といった借入です。

「日常の消費を借入で賄い、ボーナスで返済する」ということを繰り返している場合、確かに計画的に「消費者ローン」などを活用しているともいえますが、その実態は、自分自身の将来の選択肢の拡大や資産形成のためではなく、「消費者ローン」を滞りなく返済することに「計画的に取り組んでいる」ということにほかなりません。このような借入を考える前に、まずは、お金の使い道や日常の資金繰りの見直しを検討してみるほうがよいでしょう。

⑶ お金を借りる、具体的な商品・サービスは?

借入には種類がいくつかあります。こちらには、「モノ(物理的資産)の形成」「ヒト(人的資本)の形成」「その他」に区分して、借入に関する代表的な商品・サービスを記載しています。

●主要な借り入れとその内容

“モノ(物理的資産)”の形成

住宅ローン
・マンションや建売住宅を購入したり、一戸建てを建築したりする際の借入れ
・現在の住宅ローンを別の住宅ローンに変更するといった借り換えにも利用できる

マイカーローン
・自動車を購入する際の借入れ
・銀行、クレジット会社などにより、自動車ローン、オートローンといった呼び方などがある


“ヒト(人的資本)”の形成
教育ローン
・子どもの進学に伴う教育資金の借入れ
・教育ローンには、国や公的機関が行う公的なものと、銀行などが行う民間のものがある
奨学金
・学生等の修学を援助するなどの目的のために給付/貸与される資金。給付奨学金は返済不要だが、貸与奨学金は返済の必要がある


その他
カードローン
・専用のカードを利用し、ATMなどを通じてお金を借りるローン。あらかじめ決められた利用限度額の範囲内なら、いつでも何回でも借りることができ、使い途も自由
・ほとんどのカードローンは無担保、無保証だが、有担保型のカードローンもあるフリーローン
・結婚資金、旅行資金、保険適用外の手術や入院にかかる費用など、借り手の資金需要に柔軟に応えられる、使用目的を制限しないローン

事業ローン
・企業や事業主、個人経営者などに特化したローン
・法人名義で借りられるものと、事業主の個人名義で利用できるものがある

出所:三井住友トラスト・資産のミライ研究所