人生100年時代、多くの人が自身で資産をつくる必要性に気づき、「投資」の存在が一般的になりつつあります。2024年から新NISAが始まり、12月にはiDeCoの拠出限度額一部見直しも予定されるなど、制度や仕組みもそうした機運を後押ししています。

その一方で、「投資にスポットが当たれば当たるほど、“ライフプラン”の実現という本来の目的が見失われるリスクが高まっている」とファイナンシャル・ウェルビーイングの第一人者、井戸照喜氏は指摘します。

そんな井戸氏がマネープラン全体をとらえることから始め、そのうえで多くの人にとって相応しいと想定される「マネープランとしての投資」を解説する、話題の書籍『ファイナンシャル・ライフ・エンジニアリング』より、特別に一部を公開します(全2回)。

第1回では、「資産形成」というときの「資産」をあらためて見つめ直す重要性と、井戸氏自身が“人生の選択肢”が広がったと感じるエピソードをご紹介します。

※本稿は、井戸照喜著『ファイナンシャル・ライフ・エンジニアリング ――したたかに”楽しむ”!洗練された「人生の経営者」を目指して』(金融財政事情研究会)の一部を抜粋・再編集したものです。

「ヒト、モノ、お金」で捉える「資産形成の全体像」

「資産形成」という場合の「資産」として、どのようなものが連想されるでしょうか。預貯金、不動産、貴金属品などさまざまなものがイメージされますが、人が生きるうえで必要な資産は物的資産だけではありません。知識や技能などの無形資産を含めて、資産を「ヒト、モノ、お金」の3つに大別する方法があります。

1つ目がヒト=人的資本です。新たな知識を身に付けたり、学校へ通って新たな仲間と出会ったり、能力の開発に努めたりすることは人的資本を形成しているといえます。

2つ目がモノ=物理的資産です。車や自宅といったかたちのあるもの(有形資産)を所有することはもちろんのこと、近年であれば、情報やデータといったかたちのないものもありますが、これらを所有することがすなわち、物理的資産を形成することです。

3つ目がお金=金融資産です。「資産形成」という場合の資産として、真っ先にこの金融資産をイメージすることが多いのではないかと思われます。

ライフイベントの実現に向けて、この「ヒト(人的資本)・モノ(物理的資産)・お金(金融資産)」をどのように形成していくのかの全体像をイメージすることが重要です。

私たち一人ひとりが自分自身の「人生の経営者」として、ビジネスと同様に「ヒト、モノ、お金」という3つの要素を準備・マネージし、生涯を通じて発生する「金融資産と支出のギャップ」に対応していけるようになれば、「お金の不安」に振り回されることなく、自分自身のキャリアを形成し、人生の選択肢を拡大していけるはずです。