ただ、“運用資産の総額がすべて”という注意点が
このように言うと、「FIREなんて簡単」と思う人も出てくるでしょうが、注意点があるのも事実です。
まず運用資産の総額です。ここでは7500万円を前提にして計算していますが、たとえばこの運用資産総額が4500万円だったらどうなるでしょうか。実は運用資産の総額は増えるどころか、逆にどんどん目減りしていきます。2021年時点では280万7800円まで目減りして、それ以降は赤字です。
なぜそのようなことになるのかというと、毎年の取り崩し額に対して、当初の運用資産の額が小さすぎるのです。いくらS&P500が順調に値上がりして、高いリターンを出し続けたとしても、運用資産の総額が小さければ、そこから生まれる運用収益も額も小さくなります。
結果、引き出し額を全額、運用収益で賄えないため、それでも毎年300万円の生活費を確保しようとすると、「引き出し額>運用収益」の状態が続いてしまい、赤字に転落してしまうのです。
こうしたシミュレーションから考えると、FIREを実現するためには、できるだけ多くの運用資産を積み上げねばならないことが分かります。
FIREの場合、「Retire Early」という言葉が付いているので、つい早期リタイアを前提にしてしまいがちですが、年間300万円の生活費で生きていくのは、決してラクではありません。インフレが進めば、300万円の価値は今に比べて大きく減価してしまうことも考えられます。
もちろん、前出のS&P500のように長期的に高いリターンを継続できている投資対象があれば良いのですが、マーケットが今後どうなるのかは、誰にも分かりません。
その点を考慮すれば、早期リタイアを前提にしたFIREを目標にするのではなく、「生活のために嫌な仕事をしないで済む職業選択の自由を手に入れる」という意味での「Financial Independence」に重点を置き、仕事と資産運用のバランスを取ることが、何よりも大事なのではないでしょうか。