サブスク継続は「現状維持バイアス」

行動経済学の視点で見れば、「現状維持バイアス」が影響していると考えられます。これは、変化を避けて現状のままでいようとする心理です。この現状維持バイアスが、サブスクの利用者心理に影響します。何かのきっかけでサブスクを始め、定額支払いによって利用し放題になれば、利用が日常化し習慣となります。その状態がなくなるような変化は損失と感じられて、やめられなくなるのです。そして、サブスクのサービスを利用し続けることになります。

さて、この現状維持バイアスは、ボストン大学のウィリアム・サミュエルソンとハーバード大学のリチャード・ゼックハウザーが1988年に論文の中で提唱したものです。

行動経済学者ジャック・クネッチも、これを証明する実験を行っています。まず二つのクラスの学生にアンケートの回答を記述してもらいます。その間に謝礼の品を各自の前に置きます。片方のクラスの謝礼は高価なペン、もう一方のクラスはスイス・チョコレートです。実験終了時に、それぞれの学生に渡さなかったほうの品物を出し、希望者はこちらと交換できることを告げます。

この結果、交換を希望した学生は10%程度にすぎませんでした。ペンもスイス・チョコレートも、もらった学生は手放したがらなかったのです。

これは「ペンを手にした状況、チョコを手にした状態」を維持しようとする行動です。「それぞれのモノを失うことを避けた」とも考えられます。ペンとチョコのどちらが本当に欲しいのかよく考えることもなく、無意識に判断したのです。