信託報酬の水準には意味がある
適正水準の判断がより難しいのは、保有期間中のコストに相当する信託報酬のほうである。
信託報酬は、販売チャネルに関係なく一律の料率が適用され、1)販売会社、2)運用会社(委託会社)、3)受託会社の3社に分配される。ファンドによって多少の差はあるが、投信の組成・運用を担う運用会社と、投信を販売する販売会社が、それぞれ全体の40%から45%程度を受け取り、投資家から預かった資金を実際に保管・管理する受託会社が5%程度を受け取る。
ネット証券などが販売手数料をノーロードにしてもビジネスが成り立つのは、預かり残高を積み上げることで、信託報酬経由の手数料を確保できるからだ。
信託報酬の料率は、投資信託の種類によって大きくばらつきがある。ベンチマーク(運用の良し悪しを測る基準として掲げられた指数)に連動した運用成果を目指すインデックス型の信託報酬は、総じて低く抑えられている。一方、運用の自由度が高いアクティブ型は、インデックス型と比べて運用で労力を必要とする分、相応のコスト=信託報酬率がかかる。
例えるなら、インデックス型は全国どこでも同じ味を提供するチェーン店、アクティブ型は、シェフが腕をふるってこだわりの一皿を提供するビストロといったところか。価格帯に差があるのは至極当然で、高い報酬を払うなら、高い付加価値=リターンに期待して然るべきなのだ。
「コストありき」で優良なファンドは選べない
インデックス型で同じ指数に連動する商品が複数ある場合は、相対的に信託報酬が低いものを選ぶので構わない。同じフランチャイズのチェーン店なら、安いほうを選ぶのはごく自然なことだろう。
他方、アクティブ型の場合、運用方針、期待リターン、想定されるリスクは各ファンドで異なる。数多の投資信託に精通していないと信託報酬の妥当性は判断できず、表面的なコストだけで優良ファンドを見極めることは難しい。にもかかわらず、金融庁が定義するつみたてNISA対象商品(アクティブ型)のスクリーニング基準には、「国内資産を対象とするもので1.0%以下(税抜、以下同)、海外資産を対象とするもので1.5%以下」という具体的な料率が掲げられている。
筆者はこの基準に違和感を抱いている。なぜなら、数値ありきの基準が存在することで、結果的につみたてNISAではアクティブファンドの選択肢が限定されてしまっているだけでなく、事実として大多数がアクティブファンドとしての付加価値=アルファを出せていないのだ。つみたてNISAの商品選定基準にはコスト以外の要素も含まれるが、「コストありき」で優良なアクティブファンドは選べないということが、つみたてNISAの選定基準によって事実上実証されてしまったというのは、何とも皮肉である。
表面的な手数料批評は、そろそろ終わりにした方が良い。行き過ぎたコスト意識は、商品の供給元である運用会社、販売の窓口である販売会社のみならず、最終的には投資家へのしわ寄せとして表れる。投資信託という金融商品そのものだけでなく、投資信託をとりまくあらゆる要素の「質」の維持のためにも、本質をついた骨太の議論から逃げないことが重要だ。