田舎を捨てた過去

ずっと田舎が嫌いだった。でも何が嫌いだったのか言われると答えには困る。ただ何となく都会への漠然とした憧れがあって、自分の居場所はここじゃないんだと思っていた。

だから高校卒業と同時に、都内の専門学校へ行くと親に言った。学ぶものは何でもよく、とにかく田舎から出ることが目的だった。きっと父はそんな春樹の魂胆を見透かしていたのだろう。決して首を縦には振らなかった。当然、春樹は父親とけんかになった。

「ふざけんな! こんな田舎で何しろってんだよ」

「そんなてきとうな態度で東京に行ってうまくいくわけねえ! 頭冷やしやがれ!」

あとは売り言葉に買い言葉だった。

勝手なことを言うなら出ていけと怒鳴る父に、春樹はこんな家俺のほうから出て行ってやるとたんかを切った。以来本当に実家には一度も帰っておらず、この年を迎えている。

父は職人かたぎの厳格な人だった。お調子者だが真面目だった兄と違い、春樹は幾度となく父と衝突を繰り返した。殴られたことだって一度や二度では済まされない。

春樹も年を取ったということだろうか。20年以上も会っていない父はあれからどうしているのだろうかと、ほんの少しだけ感傷的な気分になった。