夫に“垢バレ”していた…

「俺、1週間ぐらい前から暇つぶしにSNS始めてみたんだよ。あれ、苦手意識あったけど意外と簡単なんだね」

まさか、夫がSNSを始めていたとは知らなかった。最近はできるだけ夫の姿を見ないようにしていたので、そんな変化に気付くわけもなかった。絶対に夫にバレるわけがないとタカをくくっていた自分が甘かった。

夫は映見が使っているのと同じ匿名SNSで、無職であることの悩みや妻である映見への申し訳なさを投稿していたのだという。あのSNSには、自分と似たような投稿をしているアカウントを「おすすめ」として表示する機能がある。夫はその機能で「ノージョブ夫の飼育日記」の存在を知ってしまった。そして昨日、過去の投稿をたどっているうちに「ノージョブ夫の飼育日記」の中身が自分の妻であることに気付いた。

「見なかったことにするつもりだったよ。あなたがこんなアカウントを作るようになってしまった原因は俺にあるし、黙っているつもりだった。でも、さすがに『消えてくれ』なんて投稿を見たら黙ってられないよ。しかも、俺の親についてもひどいこと言ってるし」

『夫、今朝も背中でお見送り。お前の背中は見飽きたぜ。まったく、こんな役に立たない家畜を育てた親の責任は重大だな。お母さん、古くて汚いご実家に息子さんを送り返してもいいですか?』

『夫、今日も「安かったから買っておいた」と連絡をよこす。このアピールうざすぎて気絶しそう。頼むから消えてくれ』

夫がどの投稿を指してそう言っているのか、すぐに分かった。夫にあの投稿を見られたと知った途端、自分の投稿がとても恥ずかしく感じられた。特に、夫の故郷である長野県で暮らしている両親のことまでののしったのはまずかった。夫が無職であることと全く関係ない。

「あの、本当にごめんなさい…」

「親の悪口とか『消えてくれ』とか投稿されて、さすがに許せないでしょ。離婚しようよ」

映見の謝罪は一瞬で打ち砕かれた。まさか、夫から離婚を切り出されるなんて思ってもいなかった。共通の趣味を通じて知り合い、夫から告白されて付き合うことになった。1年程付き合った後にプロポーズしてくれたのも夫だった。どんなことがあっても、夫は自分を愛し続けてくれると思っていた。そんな夫から離婚を切り出されるなんて……。