300万円の連帯保証人
「ああ、そうだな……」
「もったいぶるなよ。俺とお前の仲だろ」
高橋が促すと、山内はかばんからしぶしぶと1枚の紙を取り出した。
「実はさ、事業をうまく回すために、先立つものはやっぱり金でさ」
「なんだよ、金貸せってか?」
「いや、その、なんていうか、……保証人になってほしいんだ」
高橋は山内が指さした書面に視線を落とす。消費者金融から300万を借り入れたことが記載されていた。
「300万ってお前……」
想像の上をいく話とその金額に、高橋は言葉を失う。山内は机をなめそうな勢いで頭を下げ、両手を合わせた。
「頼む! こんなこと頼めるのお前しかいないんだよ」
「会社の資金繰りのために消費者金融って、大丈夫なのかよ」
「仕方なかったんだよ。プロジェクトのローンチに必要な金だったんだ。軌道にさえ乗ればすぐに返せる。ここにサインする以外、お前に手間も負担も迷惑もかけないからさ」
高橋は黙り込んだ。
300万は決して安い金額ではない。だがこんな必死な山内を見るのも、20年以上の付き合いのなかで初めてのことだった。
「分かった。今回だけな。この貸しはデカいぞ?」
「……ありがとう! ありがとう!」
山内は高橋の手を握り、何度も繰り返した。
「やめろよ。恥ずかしいヤツだな。周りが見てるって」
「関係ねえって。やっぱお前に頼んで正解だったよ。本当にありがとう、高橋」
高橋は書面に名前を書いた。印鑑を持っていないというと母印で構わないとのことだったので山内が持ってきていた朱肉に親指を押し付けて母印を押した。山内は別れ際までずっと、高橋に向けてお礼を繰り返していた。
困ったときはお互いさまだ。高橋だって山内には何度も助けられてきた。その恩返しというわけではないが、親友が困ったときに力になるのは高橋からすれば当然のことだった。
しかしそれから半年後、山内の会社は倒産し、山内は音信不通になった。
●借金はどうなる? そして山内の行方は……。 後編【「もう限界よ…」と言った妻 親友の保証人になったアラフォー男の“悲壮”な末路】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。