今注目の書籍の一部を公開して読みどころを紹介するシリーズ。今回は、これまで別々に語られてきた経営と金融の「サステナブル」をつなげる方法を探った書籍、小野塚惠美著『サステナブル経営とサステナブル金融の接続』の一部を特別に公開します。(全2回/本記事は後編)。同書を解説する無料セミナー情報も!

●前編:最近よく見る「サステナブルファイナンス」とは―どのような経緯で生まれ、なぜ今注目されるのか

※本記事は小野塚惠美著『サステナブル経営とサステナブル金融の接続』(金融財政事情研究会)から一部を抜粋・再編集したものです。

「サステナブル」であること

前編で解説したような経緯から、「サステナブル(であること)」がファイナンスと企業の両方に具体的な行動として求められるようになった。資金の出し手(機関投資家)による脱炭素企業の選好、銀行による石炭依存度の高い企業への投融資削減、各国の金融規制による開示の強化によって、金融機関は自身のポートフォリオをサステナブル色の強いものに転換し始めている。それを受けて、経営に環境、社会的責任への対応を盛り込み、サステナビリティ推進委員会を設置し、それを取締役会で監督するというESG対応は、上場企業にとって、もはや当たり前となっている。最近では、未上場会社においても、資金供給側(VCやアセット・オーナー)が投資前のデューデリジェンスにおいてESGに関する(特に脱炭素に向けた取組みや人材活用について)質問項目を設けているところも出てきた。

そしていま、サステナブルの流れは加速している。一例をあげよう。ガバナンスの1つのかたちとして情報開示がある。これまで乱立していた基準を統一し、世界レベルで横比較ができる仕組みが整備された。2021年のCOP26で発表され、2022年8月にISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が設立された。もともと米国発祥のサステナビリティ会計基準を策定するSASB(当時の米国サステナビリティ会計基準審議会)と統合思考を推進するIIRCによってできたVRF(バリュー・レポーティング財団)と、気候変動開示基準委員会(CDSB)がIFRS(国際財務報告基準)財団の傘下で統合され、ISSBとなった。ビルディングブロックアプローチという、企業のサステナビリティに関する開示のベースラインをグローバルで一致させ、地域特有な部分については調整するという発想が提唱されている。特に会計の視点を重視することから、企業における課題は中長期的に財務パフォーマンス(利益、資産や負債、資本コストなど)に影響を与えると考えられるシングルマテリアリティを考え方の基盤としている。一方で、サステナブルファイナンス発祥の欧州(大陸)では、事業環境の変化によって企業が受ける影響を測ると同時に、企業が社会に対して与える影響をも開示することを求めるダブルマテリアリティの発想が主流となっている。

国内では、開示とそれに基づいた投資家との対話がクローズアップされるが、本書では、その手前、より核となる経営と地球、社会の持続可能性と経済の発展を実現するファイナンスの関係について検討する。それぞれを「サステナブル経営」「サステナブルファイナンス」と呼ぶ。これまで多くの本がそれぞれについて語ってきているのを認識しているが、地域の特異性(たとえば日本であれば製造業が27%、そのうち自動車産業が19%を占める〈※7〉)を念頭に、サステナブル経営とサステナブルファイナンスの接続をとらえたものは少ないと考える。

※7 総務省統計局「経済構造実態調査報告2020年」。自動車産業は輸送用機械器具製造業のみで、タイヤ、鉄鋼等素材、関連機械などを含んでいない。