必要とされる「サステナブル」な経営とファイナンス

いま、世界で起こるサステナブル経営とサステナブルファイナンスの波に乗り遅れれば、遠い将来(たとえば2050年の脱炭素社会を目標とする社会)に競争力を失うだけでなく、近い将来、SDGsの目標年である2030年を境にさらに将来に向けて描かれる世界からすら取り残され、市民一人ひとりのウェルビーイングを追求する社会的、経済的基盤を失うことになろう。その過程で大きく影響を受け、また市民社会や地球環境へも正負の影響を及ぼす中核的存在となる経済主体としての企業経営者は、サステナブルファイナンスとの接点を起点に、適切な現状認識、対応と変革の遂行、取締役会におけるその監督において、熟考をしてほしい。思慮と執行のスピードは、企業の存続をも脅かすことを認識すべきである。

世界平和、人類の繁栄、資本主義を前提とすれば、2020年前半のこのタイミングで、経済の中核を担う企業、ファイナンス(直接・間接金融、私的・公的金融)を中心に議論し、最終的には政府・政策のあり方、学術界をはじめとする科学・技術革新の発展についても広く考えていきたい。

本書における章構成は以下のとおりである。まず、Chapter 1で、サステナブル経営、そこへのトランジションの方法としての「DX思考」、中核事例として武蔵精密工業と「層累的発展」について論じる。上場企業のサステナブル経営は慈善事業の正当化ではない。特に製造業では、サステナブル経営という経営者のスタンスが、社会の課題への高いアンテナで発展へのヒントをつかみ、さまざまな落とし穴を飛び越え、新技術導入などを通じて持続的な企業の収益環境をつくりだすだろう。ここでは電気自動車(EV)が産業構造を根底から揺るがす自動車産業での事例研究を示す。

Chapter 2では、サステナブル経営を支えるサステナブルファイナンスのあり方と最近の発展について紹介する。仮に、サステナブル経営が日本企業の稼ぐ力を高めていく規範性をもっているとすれば、その設備投資などへの資金供給が必要である。サステナブルな金融は、サステナブル経営と同じ志をもつことで、適切なコミュニケーションを通じて、適切かつ機動的に資金を供給できるだろう。

Chapter 3は本書の中核であるが、サステナブル経営とサステナブルファイナンスの接続点について、インベストメント・チェーン、ガバナンスの仕組み、スチュワードシップ、その理論などを紹介し論じる。経営は経営学、資金調達はコーポレートファイナンス、証券投資はインベストメント理論、など細分されているようにみえるが、社会のなかで活動するorgan(器官)としての企業は、そのすべてが統合されて生き生きと活動しているはずだ。

Chapter 4では、インパクト・ファイナンスの最近の発展の紹介と今後について論じる。インパクト経営やインパクト金融は、政府など公共団体とのリンクが強まるものであろう。一方で、PRIが国連の枠組みから生まれた民間部門の活動のプラットフォームであるように、環境や社会課題にインパクトをもつ民間部門の役割は大きくなるに違いない。

Chapter 5 では、これからのサステナブル経営とファイナンスの発展のための政府やその他の主体の役割、言い換えると、科学技術の発展とそのためのサステナブルファイナンスの役割を論じ、われわれが起こすべきムーブメントを提案する。

われわれは、日本や世界で起こりつつあることを学ぶこと自体を目的にしたくない。筆者は、日本企業がより活性化し、かかわる人々が世界をよりよくするために行動することを目的とし、そのためのツールとして知識を身につけることを期待する。本書がその一助となることを祈る。

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