夫の反撃

「なあ、最近ちょっとおかしくないか?」

夫が読んでいた夕刊から顔を上げる。ちょうど通販で頼んでいたブランドもののスカートが届いたところだった。

「おかしいって何が?」

「いや、だってさ、ちょっとした同窓会ってそんなに頻繁にあるものなのか? 何か今の生活に不満でもあるのか?」

「不満? あるわけないじゃない。どうしたの? あなたのほうがおかしいわよ?」

冬美は笑う。決してうそはついていない。瑠衣のいる生活に、不満なんてあるわけがない。冬美はこの色鮮やかな日々に満足している。

けれど夫は冬美から視線をそらさない。久しぶりに見た気がする夫の顔は、何かを暴こうと、あるいは何かを伝えようと、まっすぐに冬美へと向けられている。

「本当は何をしてるんだ?」

「何のこと?」

言うつもりはなかった。ただお酒を飲みに行っているだけだ。なかには瑠衣と肉体関係を持つような客もいるらしかったが、冬美は結婚もしているからその一線だけは守っている。何も後ろめたいことはない。

「分かった」

夫は席を立ち寝室へと戻っていった。やがて戻ってきた夫は封筒を取り出して机に並べた。それは借金の督促状とほとんど空になっている貯金の通帳だった。

「正直に話してくれるかと待ってたんだ。……何に使ってるんだよ、こんな額」

夫は悲痛な表情で冬美を見下ろした。冬美はうつむいた。借金の金額は、冬美が借りた額の倍以上に膨れ上がっていた。

「だからちょっとした同窓会で……」

「そんなわけないだろう! なんで1000万近くあった貯金がこんなに減ってるんだ! 正直に話せよ!」

「怒鳴らないでよっ!」

冬美は声を張り上げた。狂ったように押し寄せた津波が必ず引いていくように、リビングは冷たく鋭い静寂に満ちていく。

「……出てってくれ。俺の家だ。しばらく実家で頭でも冷やせよ」