<前編のあらすじ>
真理と太一は30代の共働き夫婦。大学時代からの付き合いで友達のような夫婦関係だった。美容やメイクが大好きな太一はよく真理にメイクをしたり、仲良く暮らしていた。
ある日、太一宛に宅配便が届く。中身は太一が買った40万円の美顔器だった。お互い趣味の事には口を出さないと決めていた2人だったが、「生活費より高いよね?」と真理が指摘をすると、不機嫌になった太一は「俺が君より美意識高いからってねたまないでよ」と言い捨てて寝室へと去っていった……
●前編:妻仰天! 生活費を「美容」につぎ込む夫が放った“驚愕の言葉”
開いてしまった2人の距離
あの日以来、太一との関係はぎくしゃくしている。
会話は必要最低限。休みの日に二人で出掛けることも、朝の身支度を手伝ってもらうこともなくなった。
真理はこのままではいけないと感じていた。太一と話さなければいけなかった。けれどその取っ掛かりをつかむことができなかった。
「ねえ、太一」
「ごめん、急ぐから」
まるで真理の呼びかけを遮るように、太一は廊下を通り玄関へ向かう。いつもきれいに磨いていた革靴は、最近手入れをしていないらしく汚れていた。
「太一、今日ちょっと話せる時間ある?」
「どうだろう。疲れてなかったら、まあ考えてみるよ」
思い切ってストレートに訪ねてみても、あいまいな態度にはぐらかされてしまう。
今日こそはちゃんと話そう。
その日、真理は仕事を定時で終えて家に帰った。料理を作り、太一の帰りを待った。
けれど真理がいくら待っても太一は帰って来なかった。コンソメスープは冷たくなっていく。ハンバーグにかけたデミグラスソースは油が浮いていた。すれ違ってばかりの二人を象徴しているみたいに見えた。
けっきょく太一が帰ってきたときには22時を過ぎていて、疲れた太一はスマホを眺めているだけだった。
真理は困惑していた。
太一とは短くない付き合いだ。当然けんかをしたことだってある。それでも真理たちはそのたびに話しあい、許しあい、手をしっかりと握りあって生きてきた。今回だって二人で乗り越えていけると真理は思っていた。
そのはずなのに、今回は様子が違っていた。太一とのあいだに開いてしまった距離に、サイズの間違った服を着続けているような居心地の悪さがあった。
真理は話し合いのタイミングを見計らおうと、太一の様子をつぶさにうかがった。太一は最近、よくスマホを眺めている。前は放置していたのに、今ではトイレや風呂にも持ち込んでいる。別にのぞいたりするつもりはないけれど、見られたくない何かがあるのだろうか。