約200万の慰謝料で婚約を解消

神崎は、まず、当時交際していた女性と別れた。互いの両親に結婚を前提に交際しているということであいさつも済ませた後だっただけに、婚約の解消にあたっては、かなり険悪な瞬間があったようだが、神崎が「他に好きな女性ができた」と言い切ったことで、相手の女性の方から、それ以上に離別を引き延ばしても自分の幸せにならないという気持ちになったようだった。ただし、女性の両親からは、一方的な婚約破棄に対する精神的な苦痛を受けたことに対する慰謝料を請求され、神崎は200万円近い金額を支払うことで合意した。その上で、神崎は彩花に交際を申し込んでいる。

彩花は、神崎の申し入れを、その場で断った。自分には交際している相手がいるので、「神崎さんとお付き合いはできません」ときっぱりと断ったつもりだ。しかし、神崎は、「その人とは結婚の約束をしているのか?」と問い詰め、彩花が返答に困ると、「自分も結婚相手の候補の一人として考えてほしい。今すぐに、付き合ってほしいとは言わない。自分の仕事ぶりなどをよく見て考えてほしい」と一方的に宣言した。彩花が、優斗との結婚の約束について返答に困ったのは、その頃、優斗が作家を目指して勤め先の企業を辞めたばかりで、優斗からは「自分勝手な夢のために、彩花を巻き込むわけにはいかない」といわれ、しばらくは距離を置こうといわれたところだったためだ。

彩花は、優斗の作家になる夢を一緒に応援していくつもりだった。小さな出版社が主催する新人賞で優斗が最優秀賞を受賞した時には、一緒に飛び上がって喜んだし、今回、作家として独り立ちするために会社を辞めて背水の陣で執筆に取り組むと優斗が言い出した時にも、彩花は反対をしなかった。むしろ、いつまでも中途半端に夢を追うよりも20歳代でシロクロを付けるような決断をした優斗が頼もしいと思った。たとえ作家としての芽が出なかったとしても、優斗となら生涯を供にしても悔いはないという思いを強くした。ただ、その際に優斗は、納得のいく作品が完成するまでは彩花とは会わないと宣言し、その間に、彩花が他の男性を好きになっても仕方がないということまで言った。

彩花が優斗と距離を置いている間に、神崎はさまざまな機会を使って、彩花に猛烈にアタックするようになる。そして、彩花の職場の先輩が神崎を応援するような態度にでたため、彩花は徐々に追い込まれてしまう。その時、神崎は……。

●神崎の驚愕の行動と彩花と優斗の未来は? 後編「一方的なプロポーズから一転…『精神的苦痛』を訴えた33歳男の行動に戦慄」にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

文/風間 浩