中央銀行デジタル通貨 - 「CBDC」は現金と同じ性質を持つ
最近のFRBの注目すべき取り組みの1つは、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC, Central Bank Digital Currency)の検討です。
CBDCは、中央銀行が発行するデジタル通貨であり、現金に代わるものとして注目を集めています。FRBは、2020年代初頭にはCBDC発行の検討を発表し、その後、CBDC研究チームを設立しました。
CBDCの導入は、現金の廃止、および電子マネー等の民間企業が発行するデジタル通貨の拡大に対する対抗策としての狙いもあります。
CBDCは、基本的には現在使われている現金(紙幣・硬貨)をそのままデータ化して通貨として使う形が基本です。したがって、法定通貨として強制的な通用力があります。また、電子マネーのような利用料や事後の銀行口座における振替処理が不要など、紙幣や硬貨と同じ性質を持ちます。
CBDCの特徴は、従来の通貨の性質にとどまらないところです。CBDCにはFRBがプラスやマイナスの金利を付けることが可能になります。そのため、インフレを抑制するために金利を引き上げたり、消費を刺激するためにマイナス金利を付けたりすることが、理論上は可能になります。
従来の紙幣や硬貨といった通貨は物理的なものなので、その所有者、保有量、保有期間を把握することは現実的に不可能です。したがって、中央銀行が利息を付けるべき現金保有者、保有量、保有期間のデータを得られず、現金に利息を付けることはできません。
しかし、CBDCは電子的に管理されるため、プラスやマイナスの利息を付与することが可能になります。また、CBDCは世の中のすべての金利の下限として機能します。
CBCDは、従来の紙幣や硬貨と同様に中央銀行の信用を元に発行されるためです。したがって保有に際して民間の金融資産に投資するようなリスクがありません。
一般の銀行預金や証券などの金融資産は、そのリスクを程度に応じて利息や利回りといった形で上乗せしているからです。また、従来の紙幣や硬貨といった現金とCBDCとの間で交換レートを設定すれば、CBDCの保有にマイナス金利が付けられても、直ちに現金保有が増加するのを防ぐことも可能です。
例えば、CBDCの保有にマイナス1%の金利が付いていると、年間1%のコストが発生します。すると人々は金利が0%の紙幣や硬貨などの現金を持とうと考えるでしょう。しかし、CBDCから現金に引き換える際の交換レートが1%のディスカウント、つまりCBDC100に対して現金は99しか受け取れないとしたら、保有する予定が1年に満たないCBDCは、この条件だけで考えればそのまま持っていたほうがよいことになります。
こうした特徴から金融政策に新たな柔軟性をもたらすことが期待されています。
一方で、CBDCには多くの課題が存在します。とくに、プライバシーの問題が重要視されています。中央銀行が発行するCBDCは、中央集権的な管理となるため、個人情報の保護や、支払履歴の追跡ができてしまうといった問題が生じる可能性があります。
FRBは現在、CBDCの実験や検討を進めている段階であり、導入までにはさらなる検証が必要です。しかし、FRBがCBDC導入を検討していることは、世界の金融市場に大きな影響を与えると予想されます。
●第3回(【FOMC】FRBの金融政策を占うには、「タカ派 VS ハト派」の動向が重要な理由)では、年8回開かれるFOMCの主な機能や、おさえておきたいポイントについて解説します。
『FRBの仕組みと経済への影響がわかる本』
工藤浩義 著
発行所 日本実業出版社
定価 1,980円(税込)