基軸通貨としての役割 - ブレトン・ウッズ体制に始まるドルの基軸通貨

米ドルは世界の「基軸通貨」としての役割を果たしているため、FRBが行う金融政策によっては、世界中の経済や市場に多様な影響を及ぼします。

米ドルが基軸通貨としての役割を持つようになったのは、1944年のブレトン・ウッズ体制 ※2 の時代からです。第二次世界大戦後の国際通貨体制であるブレトン・ウッズ協定において、米ドルが金と交換可能であることが確認され、米ドルを基軸通貨とする体制が確立されました。

※2 ブレトン・ウッズ体制
1944年7月、米国のニューハンプシャー州ブレトン・ウッズにおいて調印された協定。連合国通貨金融会議(45か国参加)で締結された。米ドルを国際的な基軸通貨とし、金1トロイオンス=35ドルと定め、ドルと金との兌換を保証した。参加各国の通貨は固定相場で米ドルとリンクした。1971年、米国のニクソン大統領が、ドルと金の交換を停止したことで崩壊。固定相場から変動相場制へと移行していく。

具体的には、各国通貨が固定相場でドルとリンクし、ドルは金1トロイオンス当たり35ドルで、金とリンクする制度です。各国通貨は、間にドルを挟んで金とリンクする形になり、この意味では「金ドル本位制」とも呼ばれます。

このため米ドルは、世界の貿易・資本取引、外貨準備で中心的な役割を担うようになりました。この制度は、1971年にアメリカが金とドルの交換を停止したことで崩壊しましたが、現在でもブレトン・ウッズ協定は、国際通貨体制の歴史的な出来事として、多大な影響を与えています。

例えば一部の国では、現在でも自国通貨の対外価値をドルにリンクさせるという「ドルペッグ制」を採用するなど、米ドルが重要な役割を果たしています。

ドルペッグ制とは、為替レートを固定してドルにペッグ(括りつける)する制度で、外貨準備でドルを積み立て保有することで自国通貨の安定を図るものです。具体的にはドルペッグ制を採用する国の中央銀行が為替市場に介入して、ドルとの交換レートが一定に保たれるように調整します。

ただし、このドルペッグ制には弱点があります。ドルに連動するということは、為替市場でドルが急激に変動する際には、自国通貨もドル以外の通貨に対して急激に変動することになります。

具体的には米国の金融政策が変更された結果、ドル相場が大きく変動した場合、あるいは米国の金融政策が経済環境にうまく対応できなかったときのドル相場変動の影響を大きく受けます。

また、相場を一定に保つための為替介入に備えて、大量の外貨準備を保有する必要があり、国家予算の負担になります。ドルペッグ制を採用している国々にこうした負担があることは、FRBの金融政策が国境を越えて広く影響を与えていることを示しています。

基軸通貨としての役割 - FRB政策の世界への影響

FRBの金融政策が世界経済に与える影響は他にもあります。例えばFRBが利上げを行うと、高い金利での運用を求めてドル買いが進み、海外からの資金が米国に流れ込みます。

その結果として海外の市場が混乱したり、新興国経済にとってはドル資金の調達が困難になったりすることがあります。

実際に、2013年にFRBが示した量的金融緩和政策 ※3 の縮小によって米国の長期金利が上昇し、新興国の市場に流れる投資資金が減少したことで、新興国の通貨や株価が下落して、新興国経済が多大な影響を受けました。

※3 量的金融緩和政策
2008年、世界経済危機に際してFRBが講じた大規模な金融緩和策。FRBが米国債や住宅ローン担保証券(MBS)等を買い取ることで市場に資金を供給し、商業銀行の資金力を高めることで経済を下支えした政策。

とくに、インドネシア、ブラジル、トルコ、南アフリカなどの国々で通貨安や株価下落が発生し、インドネシア・ルピアやトルコ・リラなどの通貨が急落する事態が起きました。このように、FRBの政策は世界の金融市場に大きな影響を与えます。

とくに、米ドルが国際通貨でありながら米国の法定通貨でもあるため、FRBが国内経済安定化のために行う金融政策によっては、世界中の経済や市場に影響を及ぼすことになります。

その法定通貨である米ドルの通貨発行権は、FRS(Federal Reserve System/連邦準備制度)にあります。FRSの中心となって政策を決定するのが理事会(FRB)であるため、その影響力が、米国内と米国以外の多くの国々に影響を与えることになるわけです。