投資用、居住用を問わず不動産に関するトラブルは後を絶ちません。この連載では、不動産にまつわる数々の相談に乗ってきた不動産鑑定士の福田伸二さんが、皆さんの「不動産リテラシー向上」に役立つ情報を事例と共にお届けしていきます。今回は、ワンルームマンション投資のリスクについてご紹介します。

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損切りをおすすめするケースもある

前編【外資系エリートもパワーカップルも陥る…「ワンルームマンション投資」の落とし穴】では、高い価格で投資用のワンルームマンションを購入した場合、もうかるどころか、マイナスのキャッシュフローが発生することをご説明しました。年間のキャッシュフローのマイナスが大きすぎる場合など、どこかのタイミングで損切りした方がお客様のためになると判断した場合には、売却をおすすめするケースもあります。

投資用のワンルームマンション業者からは、「生涯持ち続けてインカムを得てください」とセールスされます。ここがワンルームマンション投資の怖いところですが、物件をお持ちになっている方も、毎年キャッシュアウトをしている額が20万円ほどであれば、それ以上の痛みは感じません。いざ売却を検討する時に初めて大きなマイナスに気づくわけです。

前回も損益分岐点についてお話しましたが、2800万円でワンルームマンションを購入した場合の損益分岐点は相当高くなります。

2800万円で物件購入した時のキャッシュフローと想定される物件価格
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※赤い線より下で売るとマイナス 出所:ファイナンシャルスタンダード

現在の過熱感のあるマーケットのはるか上に損益分岐点がある厳しい状況ではありますが、返済は進んでいくので、不動産サイクルの波を上手く捉えればマイナスが少なくなる時期が必ずやってきます。借入額をある程度上回れば、新たに手元から支出することなく売却が出来るため、上記のような資料をお見せして「ここまで待ちましょうか」と、アドバイスをすることもあります。

ただ、マンションの場合はおおむね15年ごとに大規模修繕が入りますので、いずれにしても長く持ち続けることはリスクなのです。また、返済の終わる35年までには、エレベーターの取り換え工事や外壁の塗り直し、配管施設の交換など、必ず大きな改修が必要になります。35年間利益が出ずに、手元に残ったのは改修が必要な古い物件だけ、という可能性が十分にありえます。

前編でご紹介した成功パターンもそうですが、高い時に売っているから利益が出るのです。不動産投資が成功するかどうかは、いつ売るかによります。もちろん、月々の家賃収入というインカムゲインもありますが、前編でご紹介した成功パターンでさえ年間9~10万円程度です。そして近年ワンルームマンションを購入されている方のほとんどがキャッシュフローはマイナスです。私がご相談を受けたワンルームマンション投資で、キャッシュフローがマイナスなのに儲かっている方はほとんどいらっしゃいません。