証券監視委が問題視する「社員権の販売」とは

近年、投資者被害が懸念されているのが「合同会社における社員権の販売」です。合同会社とは出資者全員が基本的に等しく経営に参加する会社の1つで、社員権とは出資の見返りとして配当金などを受け取る権利をいいます。

社員権は株式会社における株式に相当し、原則自由に譲渡することが可能でした。この仕組みを利用し、社員権の取得を不特定多数に広く勧誘し、多額の資金を集める者が現れました。

株式に相当する社員権を広く販売するのですから、外形的には金融商品の募集を行っているようにも見えます。しかし社員権を取得させる行為は一部を除き金融商品取引法(金商法)の適用が及ばず、証券取引等監視委員会(以下、証券監視委)も調査できない状況となっていました。このため「高い配当金を受け取れる」などのうたい文句で社員権を購入させる投資詐欺の温床となっていたとみられます。

事実、証券監視委は調査を通し、社員権を通じた不適切な投資勧誘を認識していました。相談や苦情も多数寄せられたことから、今年6月、証券監視委は制度の改正を建議しました。合同会社などの社員(業務執行社員。株式会社の取締役に相当)以外の従業員や使用人などに社員権の取得を勧誘させる場合、金融商品取引業の登録を必須とする内容です。改正法は今年10月3日に施行されました。

金融商品取引業者として登録するには一般に厳しい要件を満たす必要があり、簡単には認められません。これにより、社員権の購入を勧誘するハードルが上がったほか、仮に金商法上の違反が認められる場合、証券監視委は告発することができるようになりました。社員権を通じた詐欺は、法改正で相当難しくなったと考えられます。

ただし、そもそも詐欺師に順法精神は期待できないため、変わらず同様の詐欺が繰り返される可能性もあるでしょう。資金をだまし取られたあとでは取り戻すことが困難なため、もうけ話を簡単に信じないよう注意してください。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。