前回(あなたの資産運用に大きな影響をもたらす? 知っておきたい「SoRリスク」)はリターンの発生順序に起因するリスク(Sequence of Return Risk)について説明しましたが、少しなじみのない話だったかもしれません。要は老後のように資金を引き出して活用する局面では、資産が多い退職直後に大きなリターンを獲得すれば、その後マイナスのリターンを被ったとしてもお金の寿命は長くなるものの、逆に退職直後に大きなマイナスを被ってしまうと、その後プラスのリターンを獲得したとしてもお金の寿命は短くなる傾向があるということです。

とは言え、いま起こっているインフレや利上げに端を発した株式市場の大きな下落、2008年の世界金融危機などの大きなショックが、自分の人生のどのタイミングでやってくるかはコントロールできません。完全にこの影響をなくすのは不可能に近いでしょう。

その影響を低減するためにはリスク(変動性)を低下させるのが効果的で、前回はその方法として、毎年同じリターンが得られる(つまり変動性なし)年金商品の活用や、オルタナティブ投資などを活用して分散度合いを高めるといった手法も提案しました。そこで今回は2つ目のポイント、つまり分散投資について、もう少し掘り下げたいと思います。

分散投資はやはり有効で、今が「異常」な状態なのか?

これまで皆さんが投資や資産形成の勉強をしてきた中で、分散投資の重要性を一度は耳にしていると思います。ただし、ご存じの通り今年は株式と債券に分散投資をしていても両方が同時に下がっており、残念ながら分散投資は十分に機能していません。

このような状況を目の当たりにしても、多くの人が「“今まで”は株式が下がる局面で債券は小さいながらもプラスのリターンを獲得できていた。おそらくこれが通常の状態であって、今は異常。だから、少し待てば通常の状態(株式と債券の分散投資が機能する状態)に戻る」と考えているかもしれません。でも、本当にそうなのでしょうか?

このような人たちの“今まで”というのは、あくまで自分が資産運用をするようになってから(あるいは仕事として資産運用に関わるようになってから)であり、長くても2000年以降の20数年間ほどという人が多いのではないかと思います。確かに2000年以降は株式と債券の相関係数(2種類のデータの関係の強弱を示す指標。以下、相関)はマイナスになっていましたので、株式と債券の分散効果が非常に高かったのは事実です。