事業会社でエンゲージメントを受けた経験
実際に私が社外取締役を務める事業会社で、エンゲージメントを受ける側になった時のお話をしましょう。社外取締役による積極的な対話の機会を設ける企業はまだ少数派ですが、当社(武蔵精密工業株式会社)は数年前からIR(投資家対応)チームと社外取締役の協働で対話を実施しています。足元の事業の説明は四半期ごとのIRミーティングでされているため、このミーティングでは、会社側からは中長期テーマにフォーカスして話をすること、私自身も社外取締役として貢献する分野について話すこと、としました。
投資家からの意見
投資家は、TSRと関連する財務成果に関する質問はもちろんのこと、脱炭素社会に向けた気候変動への対応策、新規投資、社外取締役としての女性活躍への貢献など、先ほど挙げた「6つの資本」でいう財務、製造、人的、知的、自然資本への興味を示し、企業価値を上げていくにはこうしてほしい、という具体的な要望も示しました。
社外取締役によるエンゲージメントの意義
取締役は、日々の経営の執行から独立した立場で、会社の長期的な方向性へのアドバイスや経営の監督を行います。また社外取締役は、自分の専門的な分野(私であれば20年以上の機関投資家としての経験やネットワーク、サステナブル経営への知見)を活かして、社内では発見しにくいことに対して気づきを与え、企業価値向上のためのきっかけとする役割もあります。そういった立場の私が投資家と直接エンゲージメントすることは、双方にとって現状をより理解する機会となるだけでなく、緊張感を持つことにもつながるということを、事業会社の側に立つことで実感しました。
また、投資家が高いレベルの要求をすることで気づきを得られるのは貴重なことですが、事業会社の側に立ってみると社長の顔、従業員の顔も浮かび、「そう簡単に要望に応えられないな」と思う場面もありました。もっと多くの会社で社外取締役もエンゲージメントをするべきだと思います。