参考にしたい他国の例

日本は課税優遇の拠出限度額が少額すぎる。アメリカでは、2022年は年間で2万500ドル(1ドル=140円の換算で287万円)だが、日本では最大の拠出額となる企業型DCのみ加入者の場合でも年間66万円であり、その差は4倍強となる。老後資産づくりにふさわしい拠出額の設定が望まれる。国が打ち出す「資産所得倍増計画」にふさわしい革新的な政策に期待したい。

イギリスでは、2012~2018年にかけて一定の条件を満たす全企業がDCを導入し、所定の収入以上の従業員を当該DCに自動加入することを義務付ける“NEST”(National Employment Savings Trust)制度を発足させた。これにより、それまで企業年金に未加入だった1000万人弱がDCの加入者となり、年金カバー率が大きく改善した。

アメリカでも、加入者を拡大すべくさまざまな取り組みが展開される。その1つに、強制加入を原則とする、州が主催するDC制度がある。2022年9月現在、オレゴン州、カリフォルニア州など16の州が実施済みか実施予定だが、企業年金を提供しない中小企業に対し、全従業員を自動加入(後で脱退する選択肢は残すものの)させるNESTに似た制度であり、確実な成果を示している。こうした自動加入制度による加入者拡大の動きは、カナダ、オランダ、ニュージーランド、リトアニアなど多くの国々に拡大しており、参考にしたい。

一方、日本の株式市場は長期の低迷から脱し切れていない。企業年金実態調査によると、長期投資家の範たるDBですら、日本企業への投資比率が40%弱であった最盛時から、今や10%程度へと縮小した。DC加入者などの個人投資家も、アメリカなど海外への投資の比重を厚くする。

労働市場の流動化や産業界の新陳代謝などを活発化させ、日本企業の価値向上による株式をはじめとする投資環境の活性化が望まれる。アメリカのように、DCの資産が株式市場に流入し株式市場を活性化、それが株価の上昇となり、さらなるDC資金の株式市場への追加流入を促すといった、好循環を期待したいものだ。

執筆/大川洋三

慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。